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しおりを挟むトキノはやたらと上機嫌で話し続ける。
「兄さんが子供のことまで考えてくれて嬉しいけど、まだ2人の時間を過ごしてもいいと思う。子作りは数年後にしようね。」
どうやらアカオの言葉をどこまでも都合よく解釈したようだ。
わざと曲解してる節すらある。
「そんな意味で言ってない。そうそう事は好きあってる同士でやることだし。」
アカオが身を捩って暴れれば、トキノはあっさり体を離した。
「なら兄さんが俺を好きになって。」
「好かれる努力しろよ。」
ジロリと横目でトキノを睨みつける。
「無駄だよ。何したって兄さんは俺を嫌いなんでしょ。俺が、トキノだから。」
それからトキノはアカオをふん捕まえて、用意してあったらしい細目のホースをカランにつなぐと水のでる先をアカオの尻に突っ込んで中を洗浄した。
それは排泄させられるのと同じくらい屈辱だったが、人型状態でされなかっただけましだと思うことにした。
トキノも自分で体を洗い、浴室を出て毛皮をフカフカに乾かしてくれる。
そのタイミングで置き配の食事が届いた。
トキノはアカオを人型に戻して食べさせたかったようだが、気にせず狐のまま届いたパスタをベッドの上でハグハグ食べてやった。
「兄さん、繋ぐから人型になって。」
食後、ゲップを一つして丸まった所でトキノが告げてきた。
「……そんなん言われて大人しく聞くわけないだろ。」
プイッとそっぽを向く。
「俺は人型のままでするし、結構デカいよ。そのサイズだと相当辛いと思う。俺はそれでも構わないけど……」
平然と放たれるトキノの言葉にピクッと体が跳ねた。
妖狐族だから、当然狐の姿で生殖活動することはある。
片方が人型で、というのもマイナーではあるが、それを好むつがいだっているくらいだ。
けど、冗談じゃないとアカオは思った。
「なあ、人型になるのはいいけど逃げられなくするなら繋ぐ以外の方法にしてくれない?犬猫じゃないんだから。狐だし。」
アカオはトキノに繋がれているというのがどうにも嫌だった。
プライドの問題である。
「……じゃあ、俺から離れたら心臓止まっちゃう呪いかけていい?」
それは一族を抜ける時と同等の呪いを意味した。術に慣れた妖狐複数人がかりで行う最上級の技だ。
「お前1人じゃ無理だろ。僕には尻尾が4本あるんだぞ。」
尻尾の数は妖力に比例し、妖力が高いほど呪いへの抵抗力は強い。
アカオのレベルなら、最低でも術をかける側の尻尾は合計8本必要になるのが定石だ。
「……黙っててごめん。」
そう言うと、トキノが部分変化でぶわっと自分の尻尾を出現させた。
「は?」
その数に驚く。七本どころには到底見えなかったから。
「……十、二?」
目で追って数えても信じられない。
「うん。可愛げなくなったら兄さんが構ってくれなくなると思ったから、黙ってた。」
黙ってたで済むどころじゃない。
7本だって十分可愛いの範疇じゃないしまして12本なんて、前代未聞だ。
歴代最多の九尾の狐だってこれまでに片手で数えるくらいしかいないのに。
そんな相手と、これまで必死になって張り合ってたのか。
アカオの体からがっくり力が抜けた。
そのまま妖力を使い大人しく人型になる。
流石に全裸でいる気はなく、さっき脱げたトランクスをベッドの端からひっつかみもそもそ履き直した。
「繋ぐね。」
尻尾をしまったトキノが何も言わないアカオの手をとり、手を鎖で繋ごうとした瞬間だった。
アカオの瞳からポロリと涙が流れたのは。
トキノがそれに気付いて手を止めた。
「兄さん?」
「僕、今までずっと何をしてもトキノに敵わないことがコンプレックスだった。」
涙目ですんすん鼻を鳴らしながら話を続ける。
「だって僕は長男で、トキノの兄さんなのに。全然頼りにならないのが悔しくて……それで、トキノについ酷いこと言った。」
「兄さん、俺そんな風に思った事ないよ。」
トキノがアカオの肩を掴む。
アカオは首を振った。
「嘘つくなよ。トキノだって僕を下に見てるからこんな事するんだろ。」
涙に濡れた悲しげな瞳がトキノを見る。
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