9 / 35
9,
しおりを挟むアカオはいつかと同じ言葉を吐いた。
今度は感情的にではなく、しっかりとトキノの目を見て。
見つめたトキノの顔が辛そうに歪むからか、憎いはずの相手なのに少し胸が痛んだ。
すぐにそれは単なる条件反射だとアカオは自分に言い聞かせる。
こいつが悲しもうと関係ない、と思いなおした。
「俺は兄さんが誰より好きだよ。」
トキノが腰に抱きついてきた。
そのまま頭をアカオの腹に擦り付ける。
ガシャンと鎖に手が引かれる衝撃で、自分がトキノの頭を思わずなでようとしていた事に気付いた。
伸ばした手はトキノに届かず、ただ宙に浮いた。
「トイレ連れて行ってあげる。」
体を起こしたトキノが、アカオの手首に手をかざすと金属の擦れる音を立てながら鎖が外れた。
妖力で繋がれているのか、と確認する。
つまり無理に外そうととすれば離れていてもトキノはそれを検知できるということだ。
四肢の鎖が外れた所でベッドを降りようとしたら制止される。
「俺が連れて行くから。」
子供みたいに抱き上げられた。
アカオは身長も平均よりあり小柄ではない。それでも更に長身のトキノは軽々とアカオをトイレに運んだ。
座らされ扉が閉まった後にトイレに結界を張った気配がした。
結界を張られたということは、中の様子が筒抜けと言うこと。
その術が相当に強固であることは気配から感じ取れた。
恐らくは同じものが玄関に施されてるだろう。
つまりはどうにかベッドの鎖を解いても、結界を破る間に逃亡がバレる。
強行脱出はほぼ無理だな、と便座に座りながら結論付けた。
誰よりもトキノを意識して妬んできたからこそ、自分が逆立ちしたってトキノの本気の妖術に敵わないことをアカオはよくわかっていた。
では、しばらく監禁されていたら誰か気付くだろうか。
その考えもすぐに自ら打ち消す。
アカオは友達を多く作ってきたが、踏み込んだ関係の相手は皆無だった。
学校で顔を見なくなったところで誰も深くは気にかけまい。
万が一不審に思いトキノに接触したとして人心など妖術でいくらでもごまかせる。
妖狐一族にしたって、基本的に当主の意志は絶対だ。母親ですらトキノのする事には逆らわないだろう。
状況は圧倒的にアカオに不利だった。
となると、一縷の望みはトキノを懐柔して解放してもらうことだ。
それなら僅かに勝算はあった。
だって、懐柔しまくった結果が今なのだから。
ただしそれは今までみたいに簡単ではないように思えた。
アカオの短慮により、トキノに対する嫌悪感情がばれてしまっている。
それでもいましがたトイレに行くことが許されたことから、とりつく島はあるはずだとアカオは必死に打算を巡らせた。
どうにかまたあのすこぶる出来がよいが異常にアカオに執着している弟を再び手懐け、自由にならねばならない。
よし、と奮起し出すものだしてアカオはトイレを流した。
ドアに触れれば結界が解ける。
トイレが面する廊下ではトキノが律儀に待っていた。
「兄さん、会えなくて寂しかった。」
トキノが抱きついてくる。
いや、トイレの数分だが?それで今までどうやって生きてきた?
と思ったがアカオもトキノの背中に手を回して撫でてやった。
手は洗ってない。
また抱き上げられてベッドに戻され、鎖で繋がれる。
「じゃあ出かけて来るから。」
「ああ、行ってらっしゃい。いつ戻ってきてくれる?」
アカオはさりげなく帰宅時間を探った。
それまでにできることがあるかもしれない。
「さあ。教授次第だから。待ってる間にこれ、使ってて。」
トキノが机の引き出しから何かをゴソッと取り出した。
いくつかのピンクローターだった。
それを認識して、アカオの頬がひきつる。
「え、いや、大人しくしてるから、な?」
冗談じゃない。クソ変態野郎。
作り笑いをひくつかせながら内心で罵倒する。
「浣腸とアナルプラグの方がいい?」
平然と尋ねてくる様子に観念するしかなかった。
40
お気に入りに追加
562
あなたにおすすめの小説




塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる