8 / 14
8,
しおりを挟むだ、大丈夫かな……痛そう。
「ねえ君、私が何者か聞いたね。」
魔王様を心配していたら、戦ってない方の男の人に話しかけられた。
「え、うん。」
肯定すると、その人はにんまり笑って胸を張る。
「私はね、そこの魔王様の運命のヘイ=ボンだよ。魔王様もさっき認めてくれた。」
その力強い言葉にびっくりして、心臓が縮こまる。
「えっ……」
それしか言葉が出なかった。
呆然とする僕に、自信たっぷりに男の人が続ける。
「だから私はこれから魔王様の唯一の存在としてずっとお側にいるんだ。今魔王様が戦ってるのは、私のためなんだよ。」
それを聞いた心臓が重石を投げられたようにずしっとする。
「そ、そうなんですか……」
とうとうヘイ=ボンが見つかったんだ。
僕じゃなかったんだ……僕じゃ……
胸がキリキリ痛くなって、目に涙が滲んできた。
「そうだよ。だから、これからは君も魔王様に馴れ馴れしく近づかないでね。彼は私のものだからね。私も彼の美しさにもうメロメロだよ。」
何か言われてもよく意味がわからなくて、とにかく悲しくて、涙が出てきた。
次から次にほっぺを流れていく。
どうしよう。止まらないや。
呼吸も苦しくなって、息をするとひくひくしゃくりあげてしまった。
「サティ!!」
戦っていた魔王様が、空間を転移して僕のところに来る。
けど僕は泣くのをやめられなかった。
「サティ、如何した?この者に何かされたのか?」
魔王様が優しい声で聞いてくれる。
少ししゃがんで僕の顔を覗き込んできた。
「ふっく……まお、さまっ。この人がっ、ひくっ……ヘイ=ボン、さん、なの……?」
「それは……」
魔王様は否定しなかった。
やっぱり、男の人が言う通り彼がヘイ=ボンだって魔王様も分かったんだろうか。
「もう……僕は、っうぅ……いら、ない?」
自分で言って余計に悲しくなってくる。
聞いちゃったけど、本当にいらないって言われたらどうしよう。嫌だ。怖い。
まぶたを拭う合間に魔王様の顔を見ると、困ったように眉毛を軽くハの字にしていた。
「いや、違う。この者はヘイ=ボンでは無かった。やはりそちが私のヘイ=ボンかもしれぬからまだここにいてもらおう。この者たちは帰すから。な?」
魔王様がいつもより早口で言った。
ちがうの?本当?
ぼやけた視界で魔王様を見ると、ゆっくり頷いて頭を撫でてくれた。
その体温が緊張した体にじんわり伝わっていく。
「そんな!約束が違いますよ!!私がヘイ=ボンだからここに残る代わりにアンブロシアをくれてセイ君を帰してくれるって言ったじゃないですか!嘘ついたんですか!」
自分をヘイ=ボンだと名乗った男の人が、魔王様に元気にまくし立てる。
「分かった分かった。薬はやるから、そちも帰ってくれ。」
魔王様は珍しく面倒そうに男の人を見やって言った。
「はい!承りました。」
男の人があっさり了解すると、2人の男の人の姿がさぁって空気に溶けたみたいに消えていなくなる。
「魔王様……」
まだ声がちょっと震えちゃうけど、2人きりになった神殿でどうにか魔王様に呼びかける。
「如何した。水を飲むか。」
「ううん、大丈夫。あのね、僕、魔王様が好き。」
やっと分かったことを、さっそく魔王様に伝えた。
あの人がヘイ=ボンかもって思った時思ったんだ。魔王様のこと誰にも渡したくない。これって好きって気持ちだよね。
「そうか。」
魔王様はそれだけ言ってまだ頭を撫でてくれる。
返事が欲しかったけど、魔王様はきっとヘイ=ボンがいいんだと思ったら何も聞けなかった。
0
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
性的に奔放なのが常識な異世界で
霧乃ふー 短編
BL
幼い頃、ふとした瞬間に日本人の男子学生であることを思い出した。ファンタジーな異世界に転生したらしい俺は充実感のある毎日を送っていた。
ある日、家族に成人を祝ってもらい幸せなまま眠りについた。
次の日、この異世界の常識を体で知ることになるとは知らずに幸せな眠りに微睡んでいた……
オークなんかにメス墜ちさせられるわけがない!
空倉改称
BL
異世界転生した少年、茂宮ミノル。彼は目覚めてみると、オークの腕の中にいた。そして群れのリーダーだったオークに、無理やりながらに性行為へと発展する。
しかしやはりと言うべきか、ミノルがオークに敵うはずがなく。ミノルはメス墜ちしてしまった。そしてオークの中でも名器という噂が広まり、なんやかんやでミノルは彼らの中でも立場が上になっていく。
そしてある日、リーダーのオークがミノルに結婚を申し入れた。しかしそれをキッカケに、オークの中でミノルの奪い合いが始まってしまい……。
(のんびりペースで更新してます、すみません(汗))
尿で育てた触手に伴侶にさせられた研究員の話
桜羽根ねね
BL
触手を育てることになった研究員の梅野はかりと、餌をもらってすくすく育つ触手の、タイトル通りのハートフル()エロコメです♡
触手に自我が宿るよ。
過去に書いた話を改変しました。
帝国の皇太子に目を付けられた貧国おバカ王子の末路
珈琲きの子
BL
天使と謳われる貧国の王子ラベライト。中身はただのおっぱい好きなおバカな転生者だった。
しかし皆を虜にするような愛らしい外見から帝国の皇太子に目を付けられ、政略結婚により帝国の皇太子妃に迎え入れられる。
おバカなラベライトはそんなことも露知らず、世界最先端の技術を持つ帝国に住めることを喜ぶのだが……
マッチョ皇太子×外見天使なおバカ王子のアホエロ物語。
※半分無理矢理の快楽堕ちです。
【BL-R18】魔王の性奴隷になった勇者
ぬお
BL
※ほぼ性的描写です。
魔王に敗北し、勇者の力を封印されて性奴隷にされてしまった勇者。しかし、勇者は魔王の討伐を諦めていなかった。そんな勇者の心を見透かしていた魔王は逆にそれを利用して、勇者を淫乱に調教する策を思いついたのだった。
※【BL-R18】敗北勇者への快楽調教 の続編という設定です。読まなくても問題ありませんが、読んでください。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/17913308/134446860/
※この話の続編はこちらです。
↓ ↓ ↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/17913308/974452211
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる