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だ、大丈夫かな……痛そう。

「ねえ君、私が何者か聞いたね。」

魔王様を心配していたら、戦ってない方の男の人に話しかけられた。

「え、うん。」

肯定すると、その人はにんまり笑って胸を張る。

「私はね、そこの魔王様の運命のヘイ=ボンだよ。魔王様もさっき認めてくれた。」

その力強い言葉にびっくりして、心臓が縮こまる。

「えっ……」

それしか言葉が出なかった。
呆然とする僕に、自信たっぷりに男の人が続ける。

「だから私はこれから魔王様の唯一の存在としてずっとお側にいるんだ。今魔王様が戦ってるのは、私のためなんだよ。」

それを聞いた心臓が重石を投げられたようにずしっとする。

「そ、そうなんですか……」

とうとうヘイ=ボンが見つかったんだ。
僕じゃなかったんだ……僕じゃ……
胸がキリキリ痛くなって、目に涙が滲んできた。

「そうだよ。だから、これからは君も魔王様に馴れ馴れしく近づかないでね。彼は私のものだからね。私も彼の美しさにもうメロメロだよ。」

何か言われてもよく意味がわからなくて、とにかく悲しくて、涙が出てきた。
次から次にほっぺを流れていく。
どうしよう。止まらないや。

呼吸も苦しくなって、息をするとひくひくしゃくりあげてしまった。

「サティ!!」

戦っていた魔王様が、空間を転移して僕のところに来る。
けど僕は泣くのをやめられなかった。

「サティ、如何した?この者に何かされたのか?」

魔王様が優しい声で聞いてくれる。
少ししゃがんで僕の顔を覗き込んできた。

「ふっく……まお、さまっ。この人がっ、ひくっ……ヘイ=ボン、さん、なの……?」

「それは……」

魔王様は否定しなかった。
やっぱり、男の人が言う通り彼がヘイ=ボンだって魔王様も分かったんだろうか。

「もう……僕は、っうぅ……いら、ない?」

自分で言って余計に悲しくなってくる。
聞いちゃったけど、本当にいらないって言われたらどうしよう。嫌だ。怖い。

まぶたを拭う合間に魔王様の顔を見ると、困ったように眉毛を軽くハの字にしていた。

「いや、違う。この者はヘイ=ボンでは無かった。やはりそちが私のヘイ=ボンかもしれぬからまだここにいてもらおう。この者たちは帰すから。な?」

魔王様がいつもより早口で言った。

ちがうの?本当?
ぼやけた視界で魔王様を見ると、ゆっくり頷いて頭を撫でてくれた。
その体温が緊張した体にじんわり伝わっていく。

「そんな!約束が違いますよ!!私がヘイ=ボンだからここに残る代わりにアンブロシアをくれてセイ君を帰してくれるって言ったじゃないですか!嘘ついたんですか!」

自分をヘイ=ボンだと名乗った男の人が、魔王様に元気にまくし立てる。

「分かった分かった。薬はやるから、そちも帰ってくれ。」

魔王様は珍しく面倒そうに男の人を見やって言った。

「はい!承りました。」

男の人があっさり了解すると、2人の男の人の姿がさぁって空気に溶けたみたいに消えていなくなる。

「魔王様……」

まだ声がちょっと震えちゃうけど、2人きりになった神殿でどうにか魔王様に呼びかける。

「如何した。水を飲むか。」

「ううん、大丈夫。あのね、僕、魔王様が好き。」

やっと分かったことを、さっそく魔王様に伝えた。
あの人がヘイ=ボンかもって思った時思ったんだ。魔王様のこと誰にも渡したくない。これって好きって気持ちだよね。

「そうか。」

魔王様はそれだけ言ってまだ頭を撫でてくれる。
返事が欲しかったけど、魔王様はきっとヘイ=ボンがいいんだと思ったら何も聞けなかった。


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