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しおりを挟むこうして僕は魔界で魔王様と暮らすことになった。
今はもう何日経ったかも覚えてない。
魔王様はお城に住んでいて、そこには色々な魔物さんが一緒に住んでいた。
業火を噴くドラゴンとか、土塊から生まれたゴーレムとか、狼男、鳥女、とにかくいっぱいだ。
最初は襲われないかビクビクしていたけど、話してみればみんないい人(?)だった。
そしてみんな魔王様が大好きらしい。
僕のいた世界では魔界から来た魔物は凄く怖くて人間を攻撃するんだって言ったら、それは僕の世界に渡った魔物さんの性質が変わっちゃうからだって魔王様が教えてくれた。
魔王様は物知りでもある。
魔界には穴があって、そこから魔物さんが僕のいた世界に流されちゃうらしい。
それが起こるのは自分が無欠じゃないからだって、魔王様は残念そうに言った。
そっか。魔王様は魔物さんたちが違う世界に流されないように、ヘイ=ボンを見つけて無欠になりたいのかって思ったら、僕もそんな優しい魔王様が好きになった。
本当に魔界も魔物も魔王様も、村で聞いてた話と全然違うんだ。
なんでみんなに違うよって言わないのか聞いてみたけど、魔王様は僕のいた世界には行けないらしい。
それもそうか。優しい魔王様が凶暴になっちゃうかもしれないし。
「サティ、目覚めよ。」
ある朝も魔王様に起こされて目が覚めた。
何かお布団があったかいなぁと思ったら、あったかかったのは魔王様の体で僕は寝相の悪さのせいで魔王様の上に乗っかって寝ていたようだ。
「ふぁ……魔王様、おはよう。」
寝ぼけ頭でなんとか体を起こすけど、力が入らなくてすぐに横のマットにへたっと座り込む。
朝は弱いんだ。
魔界は特に、太陽が青いから朝日を浴びても目覚めがスッキリしない。
「ふむ、顔を洗うがよい。」
そう言って魔王様は寝室から出て行った。
僕は起きなきゃと思いながら、寝心地のいいマットレスに残った魔王様の温もりに突っ伏して二度寝を決め込んだ。
「サティ、目覚めよ。」
本日2度目、魔王様に起こされた。
意識が浮上すると、香ばしくて甘い良い匂いがする。
寝室の端に置かれた豪華な丸テーブルを見ると朝食が用意されていた。
とたんにくぅ、とお腹が鳴って、ようやくベッドから這い出る。
寝間着のままテーブルにつくと、今日の朝ごはんは僕の大好きな「ぱんけぇき」だった。
小麦とか卵で作ったタネをふわふわに焼いて、「ばたー」と「しろっぷ」をかけて食べる。
村で食べたどんなお菓子より甘くて美味しい。
魔界は色々な世界と繋がっていて、魔王様も色々な世界を見てる。
ぱんけぇきはそんな世界の1つにある料理なんだって。
魔王様は色々な世界の料理が好きで、気になるものはマネしてよく作るらしい。
材料も魔力で作って凄い。
魔王様の料理は本当にどれも美味しい。
僕は魔王様と暮らし始めてから毎日おいしい、ありがとぉって魔王様に言いながら食べてる。
他の魔物さんたちはそれぞれ食べるものが決まってるから、こんなに美味しいのに魔王様の料理を食べないんだって。
だから、僕が魔王様の料理を食べて美味しいって言うと変な気分になるって魔王様は言ってた。
いや?って聞いたら嫌ではない、って言ってたから特に気にしてないけど。
「では、仕事に行ってまいる。いい子にしていよ。」
一緒に食事をして僕の洗顔や着替えを手伝ってくれた後、魔王様はくしゃくしゃ僕の頭を撫でて自分の執務室に行ってしまった。
今日も子供扱いだ。
僕は成人の儀式を済ませた立派な大人なのに。
そりゃちょっぴりだけ不器用だから顔を洗うと髪までびちゃびちゃになるし、服もよく間違えて裏返しで着るけどさ。
魔王様は、魔界と繋がっている世界の「ことわり」を管理してるんだって。
よく分かんないけど、それって僕の村で不作や疫病が起きた事と関係あるのか聞いたら魔王様は何だかすこし困った顔をしていた。
それから僕は魔王様のお仕事についてはあまり詳しく聞いていない。
僕は、自慢じゃないけどあんまり難しいこと考えるのは苦手だ。
トマも僕に似てそんな感じで、2人で遊んでると変な虫に刺されたり池に落ちてずぶ濡れになったりするから母さんによく怒られた。
会いたいな……トマ……。
僕がここに来てから結構経つ。
今のところトマは魔界に来ていない。
だからきっと、トマは元気にしてるはずだ。
でも、本当に大丈夫だろうか。無事でも、食べ物がなくて辛い思いをしてないかな。
考えると胸がしくしくしてくる。
僕がヘイ=ボンだったら、無欠になった魔王様がトマを幸せにしてくれるかな。
「よし!今日もヘイ=ボン目指して頑張るぞ!」
僕はそう決意すると、魔王様の寝室を後にした。
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