R18/短編/超絶美貌の魔王様が求めてやまないのは運命のヘイ=ボン村人だけ

1,

今まで見たどんな村の花嫁さんよりも綺麗に着飾ざられて、僕はこの世界を脅かす魔王への捧げものとして暗い森に連れてこられた。

すっごく悲しいけど、すっごく怖いけど、僕が魔王を鎮めることに失敗すれば次は幼馴染のトマが選ばれちゃうから、絶対ぜーったい失敗するわけにいかない。

最後まで僕が生贄になる事に反対して暴れてくれたトマ。
けど、僕はトマを守れるなら死んだっていいの。

震える手をどうにか堪えて、鋭いナイフを握った。
キラキラした綺麗な細工のナイフは、きっとこれから真っ赤になっちゃう。
馬鹿みたいだ。こんなに綺麗で。

そんな意地悪な気持ちがこれ以上膨れる前に、僕はトマの顔を思い浮かべながら思いっきり自分のお腹を刺した。



———————-



ふと目覚めると神殿のようなところにいた。
去年14歳の成人のお祝いに、お父さんがトマと2人で連れて行ってくれた町の神殿よりもっと豪華で大きい。
あの時トマと、こんなところに住みたいねって笑い合った。

僕、自分でお腹を刺したはずなのに、なんでなんともないんだろう。
ここが長老様が言っていた魔界なのだろうか。
刺した場所をさすってみても、おへそがあるだけだった。

「おい。」

少し遠くから落ち着いた男の人の綺麗な声がしてビクっと体が跳ねた。
おへそを覗き込んでいた顔を上げると、神殿の奥の暗がりから背の高い人が現れる。
ずんずん近づいてきて顔が見える距離になると、思わず僕は呟いてた。

「綺麗……」

男の人なのに、雪みたいに白い肌にアメジストのような瞳、まっすぐで銀糸みたいな長い髪の毛が、黒いローブに流れてキラキラしている。
その顔は街の教会で見た聖女さまの肖像画より美しくて、こんなに綺麗なもの僕は見たことない。
少し怖いくらいだ。作り物みたい。

そう思って初めて、男の人の頭に二本、雄山羊みたいな角が生えてるのに気付いた。
本当に人じゃないのかも。人型の魔物かもしれない。

「だ、誰ですか？」

少し離れた場所で静かに立ち止まり、じっとこちらを見つめてくる相手に尋ねる。

「そちこそ、何者だ。」

耳に染みるような声が返って来た。
見た目は魔物でもおかしくないのに、不思議と危ない感じはしない。

「ぼ、僕はガジ村のヤーコの息子、サティです。ここは貴方のおうちですか？勝手に入ってごめんなさい。」

「サティ……ここは自ら命を差し出す者を呼び込む場所なれば、そちも左様であろう。謝罪はいらぬ。」

わ、これ気遣いだ。多分やさしい人だ！

「あの、あの、魔王様って知ってますか？僕その人を探してて……」

戸惑いながらも、この人なら力になってくれそうだと話を切り出してみる。
死して魔界に渡り、魔王に身を捧げよというのが村の長老から言われた僕の使命だ。
魔王様に僕で満足してもらわないと、次はトマが生贄になっちゃう。

「魔王……おそらく我のことよ。サティの世の人の子は我を左様に呼ぶ。」

そうか。じゃあ僕はちゃんと魔界に来れたんだ。そしてこの人が、世界を脅かす魔王様なんだ。

……何かそんなに怖い存在に思えないけど。
とにかく目当ての人は目の前だ。為すべきことを為さねば。