嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ

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両想い編

33, 手に入らない小鳥

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騒ぎから間も無く、意外過ぎる人物のいきなりの訪問に、僕は来賓室の下座で縮こまっていた。
ジョンは僕の隣で迷惑そうな態度を隠しもしない。
僕の同席も、相手の要望なのに相当渋った。

僕たちの目の前には長い足を優雅に組んで紅茶を一口口に含むエドヴァル様がいる。
相変わらず神話から抜け出てきたような美しさだ。

「ジョン、貴様の浅慮のせいで屋敷に市民が押し寄せたそうだな。」

エドヴァル様が目を細めてジョンに冷たい視線を送る。

「俺はただ、ルネが書いた手紙が欲しかったから同じ内容をタイプライターで打って差し替えただけだ。」

「うん、もう二度としないで。」

隣に座る大きな体をジロッと睨みつける。よくよく問いただしたら、僕を独り占めしたくてカペラ座からの僕宛の手紙や来訪も全て僕には内緒にしてたらしい。

「す、すまない……怒らないでくれルネ……。」

「そもそもなんで早く離婚しなかったんだ。ルネはもう宮廷に上がらないんだから籍を入れておく必要は無いだろう。」

「うるさい。離婚はしない。ルネと俺は愛し合っているからな。そんな事を言いにきたなら早く帰れ。」

ジョン、同じ人物かってくらい態度が違う。
エドヴァル様も呆れ顔だ。

「まあ怒るな。もうお前たちのことは知ってる。今のはただの挨拶だ。本題は礼を言いに来た。」

「お礼?」

「あれは反体制派組織が裏で煽って起こした騒ぎだった。だが、奴らもたまたまカペラ座の連中がルネと連絡が取れなくなってるのを嗅ぎつけて短絡的に思いついた計画だったようだ。やり方がいつもより杜撰だったから、尻尾を捕まえやすかった。」

「なるほど。上手く炙り出せた礼という事か。分かった。受け取った。ほらルネ、用は済んだようだから行こう。」

「待ってジョン、僕はまだエドヴァル様に話があるから!」

手を引いて立たせようとしてくるジョンを制してエドヴァル様に対峙する。

「マリーズ王妃に謝れませんか?僕たちのしたことはもうバレてるんですよね。」

だってゴシップ誌の記事にもなったんだ。耳に入らないはずがない。

「ああ、不要だ。マリーズには君を追い出してから早々にばれた。雑誌に垂れ込んだのも彼女だ。」

「え!?」

予想外の言葉に声が出た。

「元々違和感はあったらしくてな。側近のジルバルドがとっちめられて白状してしまった。」

「はぁ。」

「自国民をわざと悪者にするような事するなって相当怒っていた。大変だったんだぞ。」

何だ。すごい良い人じゃん。
僕誤解してたかも。

「ただ私がそこまでしたのが意外だったのか、最近は反省して周りに馴染む努力をしている。」

何だか納まるところに納まったみたいでよかった。
エドヴァル様が少しふてくされたような態度なのはあれだな。照れ隠しだろう。
好きな王妃様とうまく言ってよかったね。
今は心からそう思える。

「あ、それと王宮にいた頃の費用、ジョンが出してたんですよね。」

「そうだ。出すって聞かないから。」

「なんで黙ってたんですか。」

「言ったら作戦通りに使ったか?」

言われて考えてみる。
もしあの時知りもしないジョンから費用が出ると知っていたら、演出に必要な買い物をしていただろうか。

「いえ。けど、僕が貰う報酬分まで出させなくても……。」

「ああ、そんな事か。ドレスは怪しまれない程度にいくらかジョンに回した以外は私が買った。私からの報酬なんだから当然だろう。」

「なっ……!聞いてないぞエドヴァル!」

「そうだったか?私がプレゼントしたドレスを着たルネは美しかったぞ。いじけて出仕をサボっていた誰かに見せてやりたかった。」

エドヴァル様が肩をすくめて挑発的にジョンを見た。

「ルネ、今すぐその服は捨ててくれ。新しいのを買おう。」

「え、もう劇団にあげちゃったし……。」

「では俺が劇団を買い上げる。そうだそれがいい。」

「絶対やめて。」

面倒な事を言い始めたジョンを制してエドヴァル様の様子をみると、ジョンを眺めながら楽しそうに口の端を上げている。
少しこれまでのこの二人の関係を察してしまった。

「エドヴァル様、僕のお芝居見たことありましたか?」

「ほぼない。君のことは、ジョンが花を贈る時の名義を借りたいと頼まれて知っただけだ。」

「そうでしたか。」

つまり僕は完全にエドヴァル様の口車に乗せられてたわけか。

「話は最後まで聞け。一度だけ、君の芝居を観た後ジョンが意気消沈していたことがある。その時、気になって次の日の公演をこっそり観に行った。」

「ひょっとして……『夜明けのひばり』ですか?」

「まあな。なんでジョンがガッカリしたのか分からなかったよ。君は綺麗だった。」

「ありがとう、ございます。」

「ついでにばらせば、花を贈ったことは一度もない。君の言葉に便乗しただけだ。」

「つまり、僕のことはお芝居をたまたま1回見ただけだったんですね。」

「いや、2回だな。最後の日に私だけに見せてくれただろう?」

「あ……」

「あの歌声は生涯忘れない。手に入れたら殺してしまうと分かっている小鳥に、私が出来る事はそれくらいだ。」

どういう意味か聞き返す前に、エドヴァル様は席を立って帰ってしまった。
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