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両想い編

30, 暴動

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朝方の起き始めた頭に入ってきたのは、日曜のマルシェみたいな人のざわめきだった。

はっきり覚醒すると、その音が大きく部屋に響いているのに気づく。
なんだろう?外から聞こえる。

不審に思って窓の外を窺ったら、窓から見える入り口の車寄せに人だかりが出来ていた。
門から入り口まで人で埋め尽くされている。
ざっと百人以上はいそうだ。
その人たちの叫びや怒号で部屋がうるさかったのだとわかった。

一体これは何?何が起きてるんだ?

寝起きの頭が一気に冷めて考えを巡らせるけど状況がまるでわからない。
窓越しでぼやけた声を聞こうと、窓を開けて身を乗り出した。

「いいからルネを出せ!」

「ここに幽閉してるのは分かってるんだぞ!!」

「貴族が我々市民の自由を好きに奪って良いわけないだろう!」

「そうだ!ルネを解放しろ!」

「解放しろ!貴族の横暴を許すな!」

「解放しろ!市民の自由は市民のものだ!」

群衆になった人たちから解放しろのシュプレヒコールが上がるのを呆然と見つめていると、誰かの声が上がった。

「おい!あの窓にいるのルネじゃないか!?」

「本当か?」

「どこだ!?」

一層その場が殺気立つ。
どうも何か誤解があるみたいだから、説明しないと。

「あのっ……」

喋ろうとした途端に肩を後ろに引かれて窓がガタンと閉められる。
分厚いカーテンが引かれて、その向こうからどっとどよめきが上がった。

後ろを振り返るとルパートさんが少し青褪めた顔をしている。

「あまり刺激してはいけません。屋敷から抜け出せるように手配しますので付いてきてください。」

ルパートさんが早足で廊下を走るのに着いていく。
その間も怒号やガラスの割れる音が響いてきた。

「一体どういう事ですか?」

「どうも、奥様が宮廷でした事は全部王室の仕込みだったと暴露記事が出たようです。それで、無実の罪で責任を負わされた奥様がここで幽閉されていると……。」

「ええ!幽閉って、僕ちゃんとガロさんに手紙書いてましたよね?」

「私が運搬を頼んでいた下男に聞いたところ全て届ける前にある人物に言われて差し替えていたそうです。」

「差し替え?」

「奥様の直筆の手紙を欲しがりそうなお馬鹿さんがこの屋敷に一匹いるでしょう。」

「あ……。」

僕の頭に、おっきくていかつい人物が一人浮かんだ。

「他所に連れていかれたまま全然帰ってこない人物から直筆でない手紙が届いたとして、奥様ならその内容を信じますか?」

「信じないですね。」

「でしょう。さ、彼女と一緒に行ってください。地下通路から外に出る道を案内します。」

待機していたメイドが、僕を促すために寄ってくる。

「まって!みんな僕を探してるんでしょう?僕がいなくなったら収集が付かなくならない?」

「もうとっくに収集が付かない状態です。いくら旦那様が幼稚なやきもちを焼いたと言っても、この抗議は尋常じゃない。いずれ玄関が破られて彼らはなだれ込んでくる。その時に奥様に何かがあってはいけません。」

「でも……」

「奥様。おそらくこれは反体制派が絡んだ暴動です。
奥様のことは餌にされたに過ぎません。官憲はすでに呼びました。我々は彼らが群衆を鎮圧に来るまで被害を最小限にして耐えるだけです。」

「そんな、官憲が来たら、沢山怪我人がでるんじゃ……」

その時、外からどっと一際大きなどよめきがした。

「リリック伯爵だ!」

「ふざけるな!ルネを解放しろ!」

「横暴貴族め!」

そんな声がかすかに聞こえてくる。

「まさか……」

ルパートさんが慌てて3階に上るのを、僕も隣で引き止めてくるメイドさんを振り切って追った。
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