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お近づき編

28, 温室の花

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次の日の朝、朝食に呼ばれるのを待っているとドアがノックされた。

ルパートさんかと思い返事をして扉を開ける。

そこにはジョンが立っていた。
右腕を布で釣っている以外は昨日までよりパリっとした格好をしている。

「ジョン!起きて大丈夫なの!?」

「うむ。主治医に言われたから大丈夫だ。まだ腕は動かせないが……。」

「そうなんだ。よかった。」

「では、行こうか。」

ジョンに左手を差し出されて一瞬きょとんとしてしまった。
けど直ぐにエスコートだと気づく。

「あの、ジョン、大丈夫だよ。僕今男の格好してるから変だし。」

「変では無い。その、俺がしたいんだ。君が嫌でなければ……。」

そう言われて、ぎこちなく目の前の掌に自分の右手を重ねる。
ジョンはそれを確認するとゆっくり歩き出した。

今日も僕は男の格好をしているから、側から見れば手を重ねて廊下を歩く僕らは奇妙に映るだろう。
人って良くも悪くも相手の見た目や装いであっという間に態度を変えるものだって、僕はよく知ってる。

けど、ジョンは僕がどんな格好をしていても大事なものとして扱ってくれるんだな。
……フリフリの服を着た時の上振れは凄いけど。

いつもと違う方向に廊下を進むと、大きな窓で囲まれたサロンにたどり着いた。
秋の朝の柔らかい日光が部屋に溢れていて綺麗だ。
そこに置かれたダイニングテーブルに案内されて座る。

ジョンと初めて向かい合わせで食事をした。
だいぶ左手での生活に慣れたジョンは、もう卒なく左手で食事をしている。
僕は相変わらずジョンにじっと見られながらの食事だけど、慣れとは恐ろしいとはよく言ったもので視線を気にせず食事ができるようになった。

「このあと時間はあるか?」

食事も終わりが近づいたころジョンに尋ねられる。
劇の稽古はあるが、逆に言えば身の回りのことを全て人がしてくれる今の生活ではそれしかする事が無い。

「うん。大丈夫。」

「見せたいものがあるんだが……。」

そうして食後に連れてこられたのは、広い庭の一角にある小さな温室だった。
中に入るとふわりと香る知ってる匂いと可憐な色に気付く。
初めてこの屋敷に来た時に部屋に飾られていた薄紫のライラックが温室中で栽培されていた。

どうりでこの季節でも飾れるわけだ。

「どうだ?」

ジャンに期待の篭った声で聞かれる。

「綺麗だね。この季節に咲くなんて凄い。」

「あと2つ温室があって、いつでも花が咲くようにしてある。やり方を見つけるまでは苦労したが……」

うわぁ、熱意がすごい。何でそんな事わざわざ……お花好きなのかな?

「ひょっとして、僕がエドヴァル様から貰っていた花はここの……?」

役者時代にエドヴァル様の名前で贈られていた花はいつでもライラックの花が入ってたから、不思議に思ってエドヴァル様に聞いたことがあった。
適当にあしらわれて答えてもらえなかったけど、きっとここの花を使っていたんだろう。

聞くとジョンは薄っすら耳を赤くして言った。

「その……花はエドヴァルの名前を借りて私が贈っていたんだ。エドヴァルからではなくて、君はがっかりするかもしれないが……。」


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