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出会い編

14, 無口な男

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特にあてもなく廊下を徘徊する。
気がついたら稽古室に来ていた。
覗いてみたけど、流石に夜はヒヤリとしていてガウンを羽織っていても体が冷えそうなので入るのはやめた。

その奥に、明かりが漏れている扉を見つける。
伯爵が籠城してしまった研究室だ。
稽古室のすぐ近くという謎の間取り。
どうも扉が細く開いてるみたい。

まさかこんな時間まで伯爵が何かしてるんだろうか。
そもそも伯爵って何を研究してるんだ?
興味本位でランプの火を細めて近づいてみる。
隙間からバレないように覗くくらいなら出来るだろう。
そろそろ近づいて覗いた。

中は見たことがないものばかりが雑然と置かれていた。
伯爵の姿はないし、物音もしない。

電気の消し忘れか。
電源を探すために扉を開けて部屋に入った。

中に入ってよく見てみても、何をするところなのか全く見当がつかない。
部屋の左側はたくさんの工具が作業台と思われる場所に並べられていて、そこかしこに金属の板やネジのような金属の部品が木箱に入って並べられている。
何か工作するところかな?って感じ。

右側はさらによく分からない。
左右の空間を仕切るように置かれた棚にはガラスの器にたくさんの色の液体が入っている。右側の作業台には大きな四角くて深い洗面台と、その脇の天板にに大きな箱のような機器が置かれていた。

箱にはケーブルが何本も取り付けられて、細かいスイッチがついている。
上部は四角くくりぬかれ、中は四つに仕切られているようだ。
その装置から微かな音がしていたので、気になって近づいてみる。
足元にも色々な形の金属片が転がっていて避けながら進んだ。

よく見ると音は装置から出てる唸りで、くりぬかれた部分に入った液体には仕切りごとに金属片が浸されている。その金属の表面から小さな泡が湧き出ていた。その箱は稼働してるようだ。

ということは、消し忘れじゃなくて作業中?

「それに触るな。」

背後からした低い声に思わず体が跳ねる。
見ると、険しい顔をした伯爵が入り口からこちらに早足で迫っていた。

「あの、ごめんなさ……っいたっ」

慌てて後ろに下がったら床の部品を思いっきり踏んづけた。
靴底ごしに刺さった鋭い痛みに体のバランスが崩れて咄嗟に近くの棚に掴まる。

棚がぐらりとこちらに傾いた。
次の瞬間何かに視界を覆われた後に、バシャっと響く水の音と、ガシャガシャ割れるガラスの音。

何かよくわからないうちに覆いかぶさってきたものに強く抱き込まれたまま入り口に引きずられる。
その後部屋から突き飛ばされた。

「あのっ……」
もう一度謝ろうとして伯爵に起きてる異変に気付く。
鼻をつくツンとした嫌な匂いと焦げ臭い匂い。
伯爵の右肩から肘にかけて白衣が黒く変色して煙が立ちのぼっている。
焼け焦げたみたいに。

「だっ……だいじょ……」

思わず手を伸ばす。

「俺に近づくな!!」

すごい声で怒鳴られて動きを止める。

「行け。……っはぁ、出来れば、ルパートを呼んでくれ。」

そう言って伯爵は白衣を脱ぎながら洗面台に向かった。
僕は無我夢中でルパートさんの名前を叫びながら廊下を走った。
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