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出会い編
13, 借財大王
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泊まると決めた後はガロ座長に簡単な伝言メモを書いて届けてもらい、屋敷で過ごした。
伯爵の家は与えられた部屋がフリフリな事を除けば驚くくらい快適だった。
適温に保たれた室内、美味しくて色々な材料をたっぷり使った食事、清潔な浴室。
極め付けは、稽古部屋として案内された大部屋だ。
広くて壁にはバーや大鏡が設置され、床は足が痛まないように弾性のある床板が敷いてある。
適度に反響が抑えられた構造なのか、自分の発した声の具合も把握しやすい。
休憩用に隅に置かれたテーブルとチェアの装飾がフリフリなのはこの際目を瞑った。
ルパートさんはここも僕のための部屋って言ってたけど、流石に真に受けるほど素直じゃない。
会ったこともなかった僕のために伯爵がここまでする理由がないし、あのフリフリの部屋と同じ人の稽古部屋なんじゃないか。
その人もお芝居やってたんだろうか。
どんな人なんだろう。
ひょっとして伯爵もお芝居観たりするのかな?
そんな考えを振り払って一人稽古に集中した。
たっぷり夜まで稽古してお腹いっぱい食事した後、お風呂でぽかぽかにあったまってレースが裾で閃く柔らかいベッドにダイブした。
あーこれすぐ寝れそう……。
と思ったけど、うん。
全く寝付けない。
枕が変わると寝られない自分の筋金入りの体質忘れてた。
快適な弾力のマットレスの上で何度目かの寝返りを打つ。
時間はすでに深夜だ。
そういえば、宮廷に行ったばかりの時も寝れなかったな。何の気なしにエドヴァル様に言ったら、寝つきが良くなるからってカモミールのハーブティーくれたっけ。
結局あんまり効果はなかったけど、気にかけてくれたのが嬉しかった。
……まあ、他に金がかかってないんだからお茶をあげるくらい何ともないか。
何だかムカムカしてくる。
そりゃ富も他の見返りも求めてなかったけどさ。
自分の利益のために関係ない伯爵にお金出させるって何?
そもそも結婚だってエドヴァル様がさせたんじゃん。
それだけされたら人見知りの伯爵だってあんだけ僕を睨みつけるはずだよ。
ルパートさんは伯爵が僕を気に入ってると勘違いしてるみたいだけど、あの人変わり者っぽいからな。普通の人が見たらあの睨まれ方は絶対好かれてないもん。
キスされたのは……よく分かんないけど、他の態度からしてもう疑う余地がない。
なのに僕の主張どおりさっさと離婚して終わりねって、許せないよな。
向こうにしてみれば誠意が全くない。
うん。やっぱり出させちゃったところは僕が弁償しよう。
これからまた舞台に立てば、高い化粧品やドレス代でも稼ぎから返せるでしょ。何年かかかるかもだけど。
あと他に貰ったものは……。
そこまで考えて、はたっと忘れていたものを思い出した。
先日売っぱらった、ドレスについていた宝石のこと。
一気に体から体温が抜けていく。
あ、あれ……すごい値段で売れたんだ。
それこそ公演費用の半分と、滞納していた数ヶ月分の宿舎の家賃と座員の給料になるくらい。
飽きっぽいセレンの都で僕があと何年売れっ子でいられるというのか。
少なくともシワが目立つようになる年齢まで地位を守れないと返しきれない金額だと思うんだけど。
そこまで考えて、ガバッとベッドから起き上がる。
ダメだ。完全に目が冴えちゃった。
気分転換に散歩でもしよう。
ランプに火をつけてふらふらと廊下に出た。
伯爵の家は与えられた部屋がフリフリな事を除けば驚くくらい快適だった。
適温に保たれた室内、美味しくて色々な材料をたっぷり使った食事、清潔な浴室。
極め付けは、稽古部屋として案内された大部屋だ。
広くて壁にはバーや大鏡が設置され、床は足が痛まないように弾性のある床板が敷いてある。
適度に反響が抑えられた構造なのか、自分の発した声の具合も把握しやすい。
休憩用に隅に置かれたテーブルとチェアの装飾がフリフリなのはこの際目を瞑った。
ルパートさんはここも僕のための部屋って言ってたけど、流石に真に受けるほど素直じゃない。
会ったこともなかった僕のために伯爵がここまでする理由がないし、あのフリフリの部屋と同じ人の稽古部屋なんじゃないか。
その人もお芝居やってたんだろうか。
どんな人なんだろう。
ひょっとして伯爵もお芝居観たりするのかな?
そんな考えを振り払って一人稽古に集中した。
たっぷり夜まで稽古してお腹いっぱい食事した後、お風呂でぽかぽかにあったまってレースが裾で閃く柔らかいベッドにダイブした。
あーこれすぐ寝れそう……。
と思ったけど、うん。
全く寝付けない。
枕が変わると寝られない自分の筋金入りの体質忘れてた。
快適な弾力のマットレスの上で何度目かの寝返りを打つ。
時間はすでに深夜だ。
そういえば、宮廷に行ったばかりの時も寝れなかったな。何の気なしにエドヴァル様に言ったら、寝つきが良くなるからってカモミールのハーブティーくれたっけ。
結局あんまり効果はなかったけど、気にかけてくれたのが嬉しかった。
……まあ、他に金がかかってないんだからお茶をあげるくらい何ともないか。
何だかムカムカしてくる。
そりゃ富も他の見返りも求めてなかったけどさ。
自分の利益のために関係ない伯爵にお金出させるって何?
そもそも結婚だってエドヴァル様がさせたんじゃん。
それだけされたら人見知りの伯爵だってあんだけ僕を睨みつけるはずだよ。
ルパートさんは伯爵が僕を気に入ってると勘違いしてるみたいだけど、あの人変わり者っぽいからな。普通の人が見たらあの睨まれ方は絶対好かれてないもん。
キスされたのは……よく分かんないけど、他の態度からしてもう疑う余地がない。
なのに僕の主張どおりさっさと離婚して終わりねって、許せないよな。
向こうにしてみれば誠意が全くない。
うん。やっぱり出させちゃったところは僕が弁償しよう。
これからまた舞台に立てば、高い化粧品やドレス代でも稼ぎから返せるでしょ。何年かかかるかもだけど。
あと他に貰ったものは……。
そこまで考えて、はたっと忘れていたものを思い出した。
先日売っぱらった、ドレスについていた宝石のこと。
一気に体から体温が抜けていく。
あ、あれ……すごい値段で売れたんだ。
それこそ公演費用の半分と、滞納していた数ヶ月分の宿舎の家賃と座員の給料になるくらい。
飽きっぽいセレンの都で僕があと何年売れっ子でいられるというのか。
少なくともシワが目立つようになる年齢まで地位を守れないと返しきれない金額だと思うんだけど。
そこまで考えて、ガバッとベッドから起き上がる。
ダメだ。完全に目が冴えちゃった。
気分転換に散歩でもしよう。
ランプに火をつけてふらふらと廊下に出た。
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