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出会い編
10, フリルがいっぱい
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「さあさ、こちらが奥様のお部屋です。旦那様をお呼びするまで少し寛がれませ。」
乗り込んだ自動車は排煙を散らしながら貴族の邸宅が立ち並ぶセレン第7区に辿り着き、ひときわ立派な屋敷の前で止まった。
屋敷内の一室に通されルパートさんが弾むような軽い足取りで椅子を引いてくれる。
部屋に入ったとたんつい二の足を踏んだ。
なんか、フリフリな部屋なんだ……。
カーテンとか、ランプシェードとか、ベッドカバーとか、フリフリで落ち着かない。
全然今の流行りじゃない。フルドールの市民革命前かな?って感じ。
当たり前だけど僕の趣味でもない。
僕の今の質素なラウンジジャケット姿だと完全にちぐはぐだ。
女装でも僕はシンプルなデザインばかり着るから馴染むか怪しい。
こんな部屋、わざわざ僕のために用意したわけじゃないだろう。
時代遅れなのはそのせいかもしれない。
キョロキョロ辺りを見回しながら、引いてもらったピンクの布地の周りにレースの刺繍がこんもりされたチェアに座った。
「奥様、実は私、お伝えしなくてはいけない事があるのです。」
僕を座らせたルパートさんがすまなさそうに眉を下げる。
「はあ、何でしょう。」
「貴方を訪ねたのは旦那様の命ではないのです。」
「はあ……。」
僕を呼び出したのはリリック伯爵じゃないのか?
「旦那様が貴方を迎えにいくかどうかずっとうじうじ……いや、もたもた……いや、まあ、とにかく、旦那様の様子があまりに鬱陶し……いや、哀れ……いや、いじらし……いや、まあ、とにかく、見かねて我々家臣達の独断で貴方をお迎えに上がったのです。」
「はあ。」
何だろう。主人に使うと思えない語彙ばっかり飛び出してきた気がするけど。
「だからですね、今から研究室にいらっしゃる旦那様に奥様がいらした事をお伝えするんですが、少し説得に時間がかかるかもしれません。用意ができましたらお呼びしますので気長にお待ちいただけますか?」
「はあ。」
何なんだ。別に嫌嫌だったら会わなくていいけど。
離婚だけしてくれれば。
「あと、旦那様とお話しする時は2メートルくらい離れて下さいましね。初夏の川にいきなり飛び込んだら心臓がビックリしてしまうでしょう?ちょっとずつ慣らして下さいね。」
「???」
わけがわからない。僕冷水なの?
近づかれたくもないってこと?
「旦那様はとても可愛らしい方なので、きっとお二人は仲良しになれますよ。」
その言葉に更に訳が分からなくなる僕を横目に、ふふっと笑って彼は部屋を去った。
自分で言った通り、それきりルパートさんは中々帰ってこない。
かれこれ半刻くらい待っている。
その間僕は退屈だったので勝手に棚の本を物色していた。
そこには戯曲やそれの原作になっているような有名な小説のタイトルばかりが並んでいる。
僕が出たタイトルは全部あるし、気になってるやつもたくさん。
この部屋を作った人、インテリアの趣味は合わないけどお芝居の趣味はバッチリ合いそう。
あとお花の趣味ね。
華やかな柄が散りばめられた陶磁器の花瓶には、エドヴァル様からよく贈られて来たのと同じ匂いのライラックを基調とした淡い紫の花束が綺麗に活けられている。
誰なのかな。女性の部屋みたいだから、元々はリリック伯爵のお母さんか姉妹の部屋だろうか。
リリック伯爵か……。結婚する時も書面でサインを見ただけだったし、単にエドヴァル皇帝に命じられて表面上結婚しただけだろうからどんな人か気にしたこともなかった。
僕がいる間一度も王宮に来たって話も聞かなかったし。
まあそれは僕の耳に入らなかっただけかもだけど。
可愛いってどんな感じなんだろう。
神話に出てくるアモールみたいな?
いや、流石に僕と結婚できる年齢なんだからそれはないか。
じゃあ絶世の美少年ヤドニスとか?
でも、だとしたら王宮の貴婦人たちが噂をしないはずなさそうだけどな。
伯爵の姿を考えているうちにようやくルパートさんがやって来て、僕は伯爵の書斎に向かった。
乗り込んだ自動車は排煙を散らしながら貴族の邸宅が立ち並ぶセレン第7区に辿り着き、ひときわ立派な屋敷の前で止まった。
屋敷内の一室に通されルパートさんが弾むような軽い足取りで椅子を引いてくれる。
部屋に入ったとたんつい二の足を踏んだ。
なんか、フリフリな部屋なんだ……。
カーテンとか、ランプシェードとか、ベッドカバーとか、フリフリで落ち着かない。
全然今の流行りじゃない。フルドールの市民革命前かな?って感じ。
当たり前だけど僕の趣味でもない。
僕の今の質素なラウンジジャケット姿だと完全にちぐはぐだ。
女装でも僕はシンプルなデザインばかり着るから馴染むか怪しい。
こんな部屋、わざわざ僕のために用意したわけじゃないだろう。
時代遅れなのはそのせいかもしれない。
キョロキョロ辺りを見回しながら、引いてもらったピンクの布地の周りにレースの刺繍がこんもりされたチェアに座った。
「奥様、実は私、お伝えしなくてはいけない事があるのです。」
僕を座らせたルパートさんがすまなさそうに眉を下げる。
「はあ、何でしょう。」
「貴方を訪ねたのは旦那様の命ではないのです。」
「はあ……。」
僕を呼び出したのはリリック伯爵じゃないのか?
「旦那様が貴方を迎えにいくかどうかずっとうじうじ……いや、もたもた……いや、まあ、とにかく、旦那様の様子があまりに鬱陶し……いや、哀れ……いや、いじらし……いや、まあ、とにかく、見かねて我々家臣達の独断で貴方をお迎えに上がったのです。」
「はあ。」
何だろう。主人に使うと思えない語彙ばっかり飛び出してきた気がするけど。
「だからですね、今から研究室にいらっしゃる旦那様に奥様がいらした事をお伝えするんですが、少し説得に時間がかかるかもしれません。用意ができましたらお呼びしますので気長にお待ちいただけますか?」
「はあ。」
何なんだ。別に嫌嫌だったら会わなくていいけど。
離婚だけしてくれれば。
「あと、旦那様とお話しする時は2メートルくらい離れて下さいましね。初夏の川にいきなり飛び込んだら心臓がビックリしてしまうでしょう?ちょっとずつ慣らして下さいね。」
「???」
わけがわからない。僕冷水なの?
近づかれたくもないってこと?
「旦那様はとても可愛らしい方なので、きっとお二人は仲良しになれますよ。」
その言葉に更に訳が分からなくなる僕を横目に、ふふっと笑って彼は部屋を去った。
自分で言った通り、それきりルパートさんは中々帰ってこない。
かれこれ半刻くらい待っている。
その間僕は退屈だったので勝手に棚の本を物色していた。
そこには戯曲やそれの原作になっているような有名な小説のタイトルばかりが並んでいる。
僕が出たタイトルは全部あるし、気になってるやつもたくさん。
この部屋を作った人、インテリアの趣味は合わないけどお芝居の趣味はバッチリ合いそう。
あとお花の趣味ね。
華やかな柄が散りばめられた陶磁器の花瓶には、エドヴァル様からよく贈られて来たのと同じ匂いのライラックを基調とした淡い紫の花束が綺麗に活けられている。
誰なのかな。女性の部屋みたいだから、元々はリリック伯爵のお母さんか姉妹の部屋だろうか。
リリック伯爵か……。結婚する時も書面でサインを見ただけだったし、単にエドヴァル皇帝に命じられて表面上結婚しただけだろうからどんな人か気にしたこともなかった。
僕がいる間一度も王宮に来たって話も聞かなかったし。
まあそれは僕の耳に入らなかっただけかもだけど。
可愛いってどんな感じなんだろう。
神話に出てくるアモールみたいな?
いや、流石に僕と結婚できる年齢なんだからそれはないか。
じゃあ絶世の美少年ヤドニスとか?
でも、だとしたら王宮の貴婦人たちが噂をしないはずなさそうだけどな。
伯爵の姿を考えているうちにようやくルパートさんがやって来て、僕は伯爵の書斎に向かった。
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