嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ

文字の大きさ
上 下
8 / 46
出会い編

8, ラ・フォヴォリートの憂鬱

しおりを挟む
僕がカペラ座に戻って1週間。
来月末に控えた新作公演の準備が早速進んでいた。

資金はノクフォル商会からの追加融資と、僕が持ち帰ったドレスについていた宝石を売ってなんとか工面出来たみたい。

「は~。やっぱ衣装合わせっていいよねぇ。」

修道女の衣装を着つけてもらい、鏡の前に立つ。
次の新作の主人公が最後に着る衣装だ。

「王宮でもっと綺麗な服いっぱい着てたでしょうに。」

衣装係のアマンダさんが呆れたように言って笑う。

「わけが違うよ。だってあそこではどんな服着たって僕はルネ・リリックだったもの。」

こうして役の衣装に身を包むと、その役が自分に会いにきてくれたような気持ちになる。
よりリアルに登場人物のことを感じられるのだ。

シナリオと衣装、それさえあれば、どこの誰の子かもわからない捨て子だった僕でも何にだってなれる。

そうしていればいつか、自分にぴったりの役どころが見つかるんじゃ無いだろうか。

ずっとそう思って舞台に立ってきた。

「サイズは大丈夫そうね。死ぬシーン用にあと1着作ってボロボロに加工するから、またその時試着お願いね。」

「うん。ねぇ、しばらくこれ着てていい?稽古したい。」

「いいけど、汚さないでよ?」

「うん。」

アマンダさんが稽古室を去った後、今回の主人公になりきって表情を作ったり歩いてみる。

次の公演タイトルは『陛下のお気に入り』という北方の国シューヴェンの王様の愛人が主人公の物語だ。

あらすじはこう。
その国の地方領主の娘レオノールは、密かに修道士のバルドーと恋に落ちるが旅の途中で領主の屋敷を訪ねた国王に見初められ泣く泣く愛人として宮廷にあがる。
そこで彼女は気持ちを隠して健気に王に尽くすが、大臣の陰謀に巻き込まれて敵国のスパイの疑いをかけられ追放されてしまう。
行き場をなくした彼女は冬の寒空の下修道女に扮して三日三晩歩き続け、バルドーがいる修道院に辿り着く。
そこで彼女を見つけたバルドーに残った力を振り絞り愛を伝え、愛しい男の腕の中で事切れるのだった。

うん。今の僕が愛妾役をやるっていう話題性と僕の当り役を足して二で割ったようなシナリオだ。
これはきっとウケるに違いない。
ガロ座長のこの辺のセンスは本当凄いんだよな。
ちょっと金銭感覚が鈍いとういか、損得勘定が苦手なだけで……。

にしてもまーた恋で死んじゃう女の人の役かぁ。
そりゃ冬のシューヴェンで薄着で3日歩き続ければ凍え死ぬよ。
そうまでして会いたいってどんな気持ち?
会えたらどんな表情になるんだろう。
考えても衰弱して死にそうな顔しか浮かばない。

鏡を覗き込んでまたいくつか表情を作ってみる。
どれもピンと来ない。
もし僕が本当にエドヴァル様に愛されていたら何か分かったんだろうか。
そう思うとなぜか胸がギュッとした。
けどそれだけ。

「あー。また薄っぺらって書かれちゃうのかなぁ……。」

褒めてくれた言葉はその何倍もあるのに、どうして意地悪な評論の方がずっと気になるんだろ。

ゴンゴン鏡に額をぶつける。

「ルネ……って何してるんだお前。」

稽古室に入ってきたガロ座長がギョッとしている。

「……役作り……。」

変なところを見られてしまって恥ずかしいから適当にごまかした。

「そんなシーンないだろ。万一割れて顔に傷がついたらどうすんだ。」

「ごめん。気をつける。何か用?この部屋まだ僕の予約時間中のはずだけど……。」

「客だよ。」

「お客様?僕に?」

「ああ。……リリック伯爵家の使者だってよ。」

その意外すぎる来客に、僕は目を丸くして座長は肩を竦めた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

[完結]閑古鳥を飼うギルマスに必要なもの

るい
BL
 潰れかけのギルドのギルドマスターであるクランは今日も今日とて厳しい経営に追われていた。  いつ潰れてもおかしくないギルドに周りはクランを嘲笑するが唯一このギルドを一緒に支えてくれるリドだけがクランは大切だった。  けれども、このギルドに不釣り合いなほど優れたリドをここに引き留めていいのかと悩んでいた。  しかし、そんなある日、クランはリドのことを思い、決断を下す時がくるのだった。

うまく笑えない君へと捧ぐ

西友
BL
 本編+おまけ話、完結です。  ありがとうございました!  中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。  一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。  ──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。  もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

ガラス玉のように

イケのタコ
BL
クール美形×平凡 成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。 親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。 とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。 圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。 スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。 ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。 三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。 しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。 三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O
BL
全16話 ※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。 ※2023.11.18 文章を整えました。 辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。 「なんで、僕?」 一人狼第3王子×黒髪美人魔法士 設定はふんわりです。 小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。 嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。 感想聞かせていただけると大変嬉しいです。 表紙絵 ⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

処理中です...