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出会い編

6, 恋とはどんなもんなんだ

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エドヴァル様に突き放されてトボトボと裏口に戻ると、焦れていたジルバルドに馬車に詰め込まれそうになった。

「まっ、待って!」

「まだ何か?話が広がる前に去らないと、嫌な言葉を浴びせる人に遭遇するかもしれませんよ。」

「いいですよ。ヤジには慣れてます。それよりほら、終幕にはこれが必要でしょ。」

僕は屋敷に向かってとびきり優雅な礼をした。
鮮やかな緞帳もない。舞い散る紙吹雪も、歓声も、アンコールもない。
そんな僕の終幕だ。

後ろからパチパチと音がする。
振り返るとジルバルドが拍手をしてくれていた。

「ふへへ。拍手はあった。」

思わず嬉しくてへらへら笑う。

「まったく、あなた馬鹿でしょう。」

ジルバルドが呆れたように言った。

「お芝居馬鹿ってよく言われます。」

「良かったですね。茶番は終わり。ほら、劇団に向かいますよ。」

「はぁい。」

今度はジルバルドは急かさず馬車に乗せてくれて、見送ってくれると思いきや向かいに乗り込んできた。

「あ、ここで……」

「送り届けるよう陛下に言われてますので。」

「じゃあよろしくお願いします。」

ピシリと鞭の音がして、エドヴァル様のいる宮殿がゆっくり後ろに消えていく。
それを見るともなしに目で追った。

「どうか我々を恨まないでいただきたい。」

言われた言葉に横に向けていた顔を正面に向ける。
オイルランプの暗い明かりの中で、いつも澄ましたジルバルドがすこし悲しそうに見えた。

「恨みません。僕陛下のこと好きですよ。ジルバルド様にも王宮で色々助けて貰ったし。」

「なら良いのですが。」

ジルバルドはそれきり黙ってしまったので、僕はまた顔を背けて窓を見た。
暗闇に反射した僕の顔が写り込んでいる。

好きって口に出してみると、逆によくわからなくなった。

僕はエドヴァル様が好きなんだと思う。
見つめられるとドキリとしたし、冷たくされれば悲しかった。

でも今、もう2度と会えないかもしれないのにそんなに落ち込んでない。
それこそスザナみたく死んじゃう気は全くしない。
むしろ窮屈な生活が終わってまたセレンの街に戻れる事が嬉しいくらいだ。

偉い人に褒められて浮かれてただけだったのかな。
あーあ。エドヴァル様に恋したから、恋の演技が上手くなるかもって期待したんだけどな。

恋愛表現は僕の一番の苦手分野だ。

スザナの演技も、辛口の批評家には「承認欲求まみれの薄っぺらな恋愛感情」なんて酷評された。
でも正直よく分かんない。
スザナは信じた人に認めてもらえなくて死んだんでしょって今でも思ってる。

嬉しい時は嬉しい顔に。
悲しい時は悲しい顔に。
それは出来る。
嬉しいも悲しいも知ってるから。

でも恋の顔って?
僕は今恋の顔してる?

窓を覗き込んでみても、いつもの自分が暗闇に写っているだけだった。
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