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出会い編

2, 花の都で公式愛妾…ですか!?

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一国の主が、熱心に自分の舞台を観てくれていた。

そんな状況で浮かれない役者がいるか?

この帝国ロストリアの首都、セレンで売れっ子役者をしていた僕。

僕には、舞台の度に皇帝エドヴァルの名前で花が届いていた。
それこそ初舞台の端役の時から。

もちろん本当にエドヴァル様からなんて信じちゃいなかった。観劇ファンには、贔屓の役者に匿名で花を贈る時王族や有名人の名前を勝手に使う習慣があるから。
役者とファンのちょっとした戯れだ。

けど、ある日さる高貴な方の招待と呼び出された会食にエドヴァル様がいた。
あの時は驚きで心臓が飛び出るかと思った。

そして続けて出てきた言葉にはもっと驚いた。

「私の公式愛妾になり、王宮に出仕して欲しい。」

エドヴァル様とその側近、僕しかいない秘密裏のディナーの場で彼は率直に言った。
エドヴァル様は都でも評判の美男子で、形のいい瞳をこちらに向けられるだけでちょっと手元のスープの味が薄くなる。
トリュフが入った高級なやつっぽいのに勿体ない。

「それは……どういう……」

「君には、王宮で徹底的に嫌われてほしいんだ。私の妻の代わりにね。」

エドヴァル様は形のいい唇をグラスにつけてワインを飲んだ。
つられて僕も一口乾いた喉に流し込む。
いいワインだろうに、スープよりさらに味がしない。

妻って、半年前にあのグーリデン連合王国から来たお姫様だよな。
長年敵だった国から、和解の証に嫁いできたってお芝居バカで世間に疎い僕だってゴシップ誌や噂で知ってる。
雑誌の挿絵では優しそうで綺麗な人なのに。

「マリーズ王妃様は嫌われてんですか?」

「君もロストリア人ならグーリデン女など嫌いだろう。」

「へ?会ったことも話したこともない人を嫌いんなれなくないですか?」

「君、地の言葉は中々粗野だね。いいよ。その言葉で宮廷で話せば中々反感を買いそうだ。」

悪かったな。仕方ないだろ貧民街上がりなんだから。
ちょっと予想外の話題で地がでただけだ。

「失礼いたしました。それはつまり、僕が愛妾として傍若無人に振る舞えば、王妃様に同情が集まると言うことでございますか。」

「そうだ。君は役者として中々の実力を持っている。その君を見込んで頼みたい。」

そ、そう言われると悪い気はしないな。
スープ皿が下げられ置かれた魚料理の付け合わせをフォークの先でツンツン突く。

「エドヴァル陛下は僕のお芝居をご覧になられたのですか?」

「ああ。いくつも見たよ。特に『夜明けのひばり』は良かった。」

あ、僕の出世作だ。

「あの、もしかして、僕にお花を贈ったり……」

「いくつも贈った。」

何てこった。まさかあの花、本当にエドヴァル様からだったのか!?

「で、やってくれるだろう?」

有無を言わせぬ強引な瞳から目を反らせなくなる。
僕がゆっくり頷くと、エドヴァル様は満足げに笑って、その表情にドキリとした。

それからしばらくして、帝国演劇場の看板役者ルネ・リリックがエドヴァル皇帝の公式愛妾になるという一大ニュースがセレン中を駆け巡ったのだった。
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