26 / 27
26, Side Lisi 真実は君の中
しおりを挟む
結局正式な調査でも俺の見立て通りあの屋敷には幻覚作用のあるガスが充満していたことがわかった。
何かの拍子に地下室が崩れ、そこからガスが出ていたらしい。
周りに聞き込みをしてみればあの屋敷はずいぶん前から廃墟だったようだ。入ると屋敷の持ち主だった貴族の亡霊が現れるという噂があり、地元民は誰も近寄らない場所だった。
「まったく、こんなこと現場に出てみればすぐにわかるのに何故エルペーニャの連中は気付かなかったのでしょう。役人が無能すぎます。再調査をするよう圧力をかけたところで、プロセスが間違っているんだから無駄なはずですよ。」
調査資料を整理しながらマーレイが呆れ顔で言う。
「証書が本物だと思ったらそりゃ実地調査の腰も重くなるさ。」
実際グリハルドの貴族証書は本物だったようだ。家系図も、ルティが改ざんを白状したから一部加工があることが判明したが実物を元に作られているのは確かなようだ。
「確かに、仮に怪しんでも自国の王子が持ち込んだ書類を中々偽物だとは言えないですね。」
「それと、こんなものを入手した。」
デスクの向かいに座るマーレイの前に古びた手記を置く。
「何ですか?」
「100年前の、とある役人の手記。これによるとグリハルドは元々侯爵家だったらしい。」
「男爵に格下げされたということですか?」
「ああ。侯爵家時代に当時のエルペーニャ王と侯爵令嬢が婚約したが、後に令嬢の不貞行為が発覚して婚約取り消しと降格処分になった、と言うのが手記によると表向きの話だ。」
「表向きですか。」
「実際は王の方が心変わりをしてロストリアの王族を娶りたくなり、邪魔なグリハルド家を陥れたのが真相だとある。」
「それなら単に婚約破棄をすれば良いのでは?わざわざ不貞をねつ造してまで降格にしたのは何故でしょう。」
「元々グリハルド家の領地は、彼らの屋敷があるピナラーラ山と周辺の山脈一帯だった。山脈の東側は有数の金鉱だ。男爵家に降格されたのを機にその辺りは没収されて王家の直轄地になってる。」
「つまり、狙いは金鉱脈だったと。」
「その可能性が高いが、実のところは分からない。この辺りは王家側の公式記録に全く残ってないからな。自分たちの悪い話だからおそらく意図的に残していないんだろう。」
どれだけグリハルド家を怪しんでも分からないはずだ。記録の方が不完全なんだから。
「その手記はどうしたんですか?」
「グリハルドの家系図を細工した商会が出してきた。ルチアーノが懇意にしてるとこだ。この件を騒ぎ立てれば、王家に不都合なことが蒸し返されるぞと言いたいみたいだな。」
「ルチアーノ殿下の嘘のお膳立てをしたのがその商会なら必要な保身ではありますが、貴方に告げるというのが何とも腹黒い。手記がそもそもねつ造の可能性もありますよ。」
「かもしれないな。商会は、あくまでルチアーノに頼まれて家系図の一部に細工をしただけだと主張している。」
「そんな言い訳通るわけないでしょう。証書が湧いてきたわけでも無いでしょうに。」
マーレイが首をすくめていう。
ルティたちだけでここまでのことができるとは思えない。商会が加担して全部準備をしたというのが一番ありえる計画の実態だ。
どんなに敵対する気は無いと示したところで、俺たちが連れてくるフローレの商人が気にくわないのだろう。
しかし、ここが今回一番スッキリしないところになる。
「けど、ルチアーノや計画に協力していた双子も同じことを言っている。元の資料はグリハルド家から預かったと。」
「グリハルド家は断絶していたんですから、出来るわけないでしょう。幻覚ガスの所為でそう思いこんでるだけです。」
「あのガスは別に吸った人間に同じ幻覚を見せるものじゃない。なのに聞き取りした3人の話はぴったり一致していただろう?それに仮に全て商会のお膳立てだったとして、ルティたちが嘘をつく理由は?」
「では、殿下は本当にグリハルド家の亡霊に唆されたと?」
「……さあ、どうだろうな。ルティの話は信用ならないから。」
何かの拍子に地下室が崩れ、そこからガスが出ていたらしい。
周りに聞き込みをしてみればあの屋敷はずいぶん前から廃墟だったようだ。入ると屋敷の持ち主だった貴族の亡霊が現れるという噂があり、地元民は誰も近寄らない場所だった。
「まったく、こんなこと現場に出てみればすぐにわかるのに何故エルペーニャの連中は気付かなかったのでしょう。役人が無能すぎます。再調査をするよう圧力をかけたところで、プロセスが間違っているんだから無駄なはずですよ。」
調査資料を整理しながらマーレイが呆れ顔で言う。
「証書が本物だと思ったらそりゃ実地調査の腰も重くなるさ。」
実際グリハルドの貴族証書は本物だったようだ。家系図も、ルティが改ざんを白状したから一部加工があることが判明したが実物を元に作られているのは確かなようだ。
「確かに、仮に怪しんでも自国の王子が持ち込んだ書類を中々偽物だとは言えないですね。」
「それと、こんなものを入手した。」
デスクの向かいに座るマーレイの前に古びた手記を置く。
「何ですか?」
「100年前の、とある役人の手記。これによるとグリハルドは元々侯爵家だったらしい。」
「男爵に格下げされたということですか?」
「ああ。侯爵家時代に当時のエルペーニャ王と侯爵令嬢が婚約したが、後に令嬢の不貞行為が発覚して婚約取り消しと降格処分になった、と言うのが手記によると表向きの話だ。」
「表向きですか。」
「実際は王の方が心変わりをしてロストリアの王族を娶りたくなり、邪魔なグリハルド家を陥れたのが真相だとある。」
「それなら単に婚約破棄をすれば良いのでは?わざわざ不貞をねつ造してまで降格にしたのは何故でしょう。」
「元々グリハルド家の領地は、彼らの屋敷があるピナラーラ山と周辺の山脈一帯だった。山脈の東側は有数の金鉱だ。男爵家に降格されたのを機にその辺りは没収されて王家の直轄地になってる。」
「つまり、狙いは金鉱脈だったと。」
「その可能性が高いが、実のところは分からない。この辺りは王家側の公式記録に全く残ってないからな。自分たちの悪い話だからおそらく意図的に残していないんだろう。」
どれだけグリハルド家を怪しんでも分からないはずだ。記録の方が不完全なんだから。
「その手記はどうしたんですか?」
「グリハルドの家系図を細工した商会が出してきた。ルチアーノが懇意にしてるとこだ。この件を騒ぎ立てれば、王家に不都合なことが蒸し返されるぞと言いたいみたいだな。」
「ルチアーノ殿下の嘘のお膳立てをしたのがその商会なら必要な保身ではありますが、貴方に告げるというのが何とも腹黒い。手記がそもそもねつ造の可能性もありますよ。」
「かもしれないな。商会は、あくまでルチアーノに頼まれて家系図の一部に細工をしただけだと主張している。」
「そんな言い訳通るわけないでしょう。証書が湧いてきたわけでも無いでしょうに。」
マーレイが首をすくめていう。
ルティたちだけでここまでのことができるとは思えない。商会が加担して全部準備をしたというのが一番ありえる計画の実態だ。
どんなに敵対する気は無いと示したところで、俺たちが連れてくるフローレの商人が気にくわないのだろう。
しかし、ここが今回一番スッキリしないところになる。
「けど、ルチアーノや計画に協力していた双子も同じことを言っている。元の資料はグリハルド家から預かったと。」
「グリハルド家は断絶していたんですから、出来るわけないでしょう。幻覚ガスの所為でそう思いこんでるだけです。」
「あのガスは別に吸った人間に同じ幻覚を見せるものじゃない。なのに聞き取りした3人の話はぴったり一致していただろう?それに仮に全て商会のお膳立てだったとして、ルティたちが嘘をつく理由は?」
「では、殿下は本当にグリハルド家の亡霊に唆されたと?」
「……さあ、どうだろうな。ルティの話は信用ならないから。」
11
お気に入りに追加
659
あなたにおすすめの小説
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
大晦日あたりに出そうと思ったお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる