R18/短編/ﾊｲｽﾍﾟｴﾘｰﾄ騎士は復讐に燃える平凡騎士見習いを弄ぶ

11,

目の前のサティは、俺の記憶の中のサティが驚いた時と全く同じように目をぱちくりさせている。

「トマ？」

「サティ……？うそだ、どういう、こと？」

サティは死んだんだ。生贄にされて。けど、今目の前にいる人もどうしようもなくサティに見える。

「トマ、騙されるな。サティは村の犠牲になって死んだだろう？あれもサティの姿を借りた魔物だよ。」

まだ俺の腕を掴んだままのラオシがきっぱり言う。

何でラオシがそれを知ってるの？
あれは本当にサティじゃないの？

どうしたらいいか分からない。
何も分からない。



「ゔゔゔゔ……」

異様な唸り声にハッとなって音がした方をみた。
召喚された異形な姿をしている方の少年の体がみるみる膨らんで、醜悪な魔物になっていく。

「ザイ、ザイ！大丈夫！？」

サティの姿をした少年がそれに近寄ろうとしていて、咄嗟に声をあげた。

「サティ！危ないから離れろ！」

助けに飛び出そうとして、ラオシにグッと強く腕を引かれる。

「だから、偽物だって。人型の方は雑魚だな。狼の方は手を加えたら使えそうだ。ほら、せっかく呼んだんだろ。頑張って。」

ラオシは俺の背後に回り背中から俺を抱き込むと、掴む場所を腕から手首に変えて無理やり魔物に向かって俺の手を突き出させてきた。
その状態でまた魔力を注ぎ込まれ、それが稲妻となって掌から放出される。

魔物は更に悍ましく膨れ上がり、空気を切り裂くような聞くに耐えない咆哮をあげた。

その太く毛むくじゃらの腕がサティの目の前で振り上げられるのを、声も出せずただ見つめた。



バシュッ



その瞬間、黒光りする一筋の光が魔物の首を刎ねた。

同時に、背の高い男がサティと魔物を立ちはだかるように何もないところから現われる。
その男の眩い銀髪の頭にはヤギのような二本のツノが生えていた。

「魔王、さま……ザイが……」

「ああ。」

そんな2人の会話がかろうじて聞こえてくる。
魔王？あれが……？

「トマ！これは大物が来たよ！大当たりだ！」

全く場違いなラオシの声が背中からして、ぽんぽん頭を叩かれた。
さっきと違って思わず払いのけてやりたくなる。

「先生、あなたの仕業か。」

魔王と呼ばれた男がこちらを向いたのを見て思わず体が凍った。
ゾッとする爬虫類のような気味の悪い瞳。肌はどす黒く、死んだ人間の腐った皮膚のようだ。
サティはあんな化け物とずっと一緒に居たのか？

「トマが親友を殺した人間たちに復讐したいって言うから手伝う必要があって。大丈夫。これでいいはずだよ。」

ラオシが変わらぬ呑気さで化け物に話しかける。
2人は知り合いなんだろうか。
色々なことが一度に起こりすぎて理解が追いつかない。

ラオシの声を聞いてサティが化け物のローブの隙間から俺を見た。
その表情に、今までサティから向けられた事がない非難の気持ちを読み取る。
いたたまれなくなって目を逸らした。

サティなら、俺がサティのために復讐するって言ったら絶対怒る。
目の前のサティは、俺が思うのと全く同じ反応だった。

「魔王様、ここにいたらダメだ。帰ろう？」

サティが化け物に優しく話しかける。
ああ、やっぱりこいつは本物のサティだ。
村で孤立していた俺に話しかけてくれた時と全く同じ態度だもの。

謝らなきゃ。きっと俺のした事はサティには迷惑だったろうから。

話しかけようとした瞬間、

「魔王、さま？」

「サティ」

恐ろしい魔物の、不釣り合いなくらいに優しい声。

「我はそちが好きだ。……達者でな。」

そうしてその異形の存在は、さっき他の魔物を殺したのと同じ刃を自分に放った。


バシュッ


化け物の首が飛んで血が吹き出す。
人間と同じ色だった。

「え、これ大丈夫かな。ちゃんと分かったみたいだし大丈夫だよね。」

ラオシの場違いに呑気な声がする。

血だまりの中に、サティはへなへなと座り込んだ。

「いやああああぁ！！」

ラオシを無我夢中で振りほどいて泣き叫ぶサティに駆け寄ろうとしたところで、魔物とサティの姿が消えた。