真夜中の太陽 ルークの初恋

すべては幻、隣の庭は枯れ木の庭 ３ー１１

ジェイドはというと、そんな一人と一匹のじゃれ合いを驚きの気持ちと共に凝視していた。
別に妖精の無礼に腹を立てて固まっていたわけではなかった。
目の前で、今世ではあり得ない事態が起きている事に驚いていた。
妖精とは、魔術で生物に似せて作られた動く人形だ。出来る事は簡単な作業だけで、買い物の荷物持ちとか、手紙を届ける位だ。
比較的新しい魔術で、歴史の教科書には、二百年前に一人の魔術研究家によって開発された魔術だと書かれている。
能力は術者の技の力量に大きく左右されると言われているが、出来る事と言ってもせいぜい物を受け取って術者のところに帰って来る、術者の声を録音再生する程度で最高と言われている。
小さなゴーレムの様な物だ、組み込まれた作者の指示を、ただ盲目的に遂行する。用が済むとチリとなって消える。
記憶は受け継がれず、そもそも
「妖精が主人と口喧嘩しながら追いかけこしてる・・・そんな・・・バカな・・」
現代の妖精に、自我は無い、はずだ。
初期の妖精は、あったと歴史の授業で習ったが、妖精に自我を持たせる事によって、主人に恋した妖精が、主人の恋人を殺したり、主人と無理心中を測ったりと、深刻なトラブルが多発した為、現代の妖精は犬の成犬程度の事しか出来ない使いきり形式に変わった。
今では、自我を持つ妖精を作成する魔術の記録は何処にも無い。
「『東屋のジジイ』？」
なんだ？それは。
ジェイドは妖精が言った『東屋のジジイ』という言葉が気になった。
ジジイというからには男性なのだろうし、口ぶりからして妖精を作り、その作り方を教える事ができる高位術者なのだろう。