真夜中の太陽 ルークの初恋

すべては幻、隣の庭は枯れ木の庭 １－１

ルークが入浴前後の用意を済ませて少しした頃に、シャルレは自室に戻って来た。
帰って来るなり、手に持っていた布を床に叩きつけた。
あまりの剣幕に驚いて、ルークは三メートル近く離れていたのに飛びのいた。
「姫？」
シャルレが、多少埃でくすんでいるとは言え、それでも尚、美しい豊かな栗色の髪をかき上げてルークを見た。
「あぁ、悪いわね。ちょっと国王の所でジェイコブに合って」
シャルレが、床に叩きつけた布を広げると、それは謁見室に向かう時には身に着けていなかったシャルレの上着だった。
「上着、気に入らなかったんですか？」
よく似合ってたのに
「手渡して来たヤツの態度と物言いが気に入らなかっただけよ」
シャルレが機嫌の悪そうな笑顔で言った。
そのにじみ出る不機嫌な空気に気圧されて、ルークも引きつった笑顔になった。
「上着、荒い物に出しておきますね」
言いながら上着のポケットに何か洗濯にだしてはいけない物が無いか確認する。
指輪やアクセサリーが入っていたら、大変だ。
時々そのまま行方不明になってしまう事が有るのだ。姫の身につけるアクセサリーには王家の家紋が入っている。一般人が持っていたら大騒ぎになってしまう。
帰って来た時の予定通り、体を洗いに行くかと問えば、少し、顔をしかめて頷いた。
ルークは何となく引っ掛かりながらも、湯浴み場に向かうシャルレの後に続いた。
シャルレ姫が顔をしかめた理由が分かったのは、行く途中の屋内噴水の前を通りかかった時の事だった。
ジェイコブ王子が噴水の所で従者と一緒に涼んでいた。