真夜中の太陽 ルークの初恋

ルークの初恋 ３－８

「今日は本当に急いで帰りたいんです。お暇いとまさせて頂きたいんですけど」
「まぁ、待ってよ。君に頼みたい事が有るんだ」
「頼みたい事ですか？初めてあった灰色蜥蜴の俺に？」
通常、灰色蜥蜴はどこの業界でも、見下される人種だ、ましてや見るからに勝ち組のこんな『殿上人』とか呼ばれてそうな人物が、灰色蜥蜴に頼み事なんてありえない。
もし、そんな事があるとすれば、十中八九相手が灰色蜥蜴族を騙して利用しようとしている時だけだ。
思わずルークがジリリと後ずさると、青年が今度は隠しもせず吹き出して笑った。
「そんなに警戒しなくても、取って食いやしないよ、私の代わりに飲み物を買って欲しいんだ」
「・・・・・・・は？」
「だから、飲み物を買って欲しいんだ。あの屋台で」
「金銭を持たず。出て来られたので？」
「いや。それが・・・持ってるコインの額が高すぎてお釣りが無いって言われちゃって」
使用人仲間の女子達の間で流行っている、安い恋愛小説の王子様みたいなセリフを言って、青年は『えへっ』っと笑った。
青年が出して見せたコインは貴族か大豪商でもない限り持っていない普通の金貨の50枚分の貨幣価値が有る大金貨と呼ばれている物で、これ一個で平民の家が三棟位建つ、ルークは頭を抱えた。
「これは、買い物する為の硬貨ではなくて、資産管理したり、商売人やお貴族様達が高額取引をするときに使用する為のお金です。」
青年は『そうなの？』と、本気なのかとぼけているのか判断しかねる笑顔でコインを手のひらの中で無造作に転がした。