闇夜の星 暗闇の燈火(やみよの ほし くらやみの ともしび)

蜜月（巣籠もり）

◆◆◆７

そうだ、五年前、ロモソルーンは卵から孵ったその瞬間からシェルに向かって『ファルァ』と鳴いていた。
求愛していた。
ロモソルーンが里親を申し出て来たドラゴンを拒んだのも、世話係をシェル以外寄せ付けなかったのも、それは当たり前の事だったのだ。
周りの人間が親代わり探しのつもりで動いていた時、ロモソルーンは番と過ごす準備をしていたのだから。
番として選んだシェル以外寄せ付けないのは当然の事だったのだ。
交尾する時、番以外のドラゴンを巣に入れるドラゴンなんて聞いた事が無い。
人間にだって商売するのでもない限り居ない。
ロモソルーンは一人戦って、ずっと番との新居を用意していたのだ。
その強さの頭角に誰も気づかない内に、自分の強さに惹かれて雌ドラゴンがシェルに攻撃し始める前に、先に自分はシェル一人を選んだと徹底的に態度で示して、周囲を黙らせた。
ドラゴンの雌に、振られると分かり切っている相手にワザワザ求愛する者は居ない。
ドラゴンは、序列を決めて自分たちの社会を統治している。故に、常にお互い強さや上に立つ者として相応しい能力があるかを見定め合っている。滑稽視される様な態度は滅多に取らない、そんなドラゴンの、しかも雄のロモソルーンが、周囲に笑われる事すら厭わずにこの五年、ずぅっとシェルを守り、子供のふりまでして二人だけの生活を守り続けて来た。
（びっくりだ）
両親が国王によって処刑されてからずっと、シェルは誰からも愛される事無く生きて来たと思っていた。
ロモソルーンは懐いてはくれていたけれど、子供が親になついているのと一緒だとずっと思っていた。
ずっと、自分はもう誰かを愛する事なんて出来ないと思っていた。