闇夜の星 暗闇の燈火(やみよの ほし くらやみの ともしび)

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

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蜜月(巣籠もり)

◆◆28

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周囲を飛び交う魔力の粒は、現れてはシェルの呼吸に吸い込まれ、現れてはまた吸い込まれて行った。
シェルの体に吸い込まれていった魔力の量は、ロモソルーンがシェルに注いでいる魔力の量だけでも、もはや人間の体が耐えられる量をとうに超えていた。
それでも、シェルの体は魔力の吸収を止めなかった。
ロモソルーンも行為を止めなかった。
シェルの体に注ぎ込まれている魔力の量は、通常、人間の体だったら、体が弾け飛んでもおかしく無い量になっていた。
ところが不思議な事に、シェルの体には物凄い量の魔力が注ぎ込まれているにもかかわらず、何の異常も出ていなかった。
ロモソルーンはその理由がわかっているのか、膨大な量の魔力がシェルの体に流し込まれているのが分かっていながら、何の躊躇もなくシェルの体に魔力を注ぎ続けた。
そして、歌った。
あの呪い歌を、ドラゴンの声で、ドラゴンの言葉で歌った。
シェルの呼吸は大きく、深くなっていき、瞳孔が限界まで開いた。そして今までで一番大きく深く息を吸い込んだ時、シェルの指が微かに動いた。唇も、ハクハクと動き始めた。
言葉を紡ぐ事は出来なかったけれど、自分の意思で動き始めた。
ロモソルーンが歯をむき出しにしてギラリと笑って、もう一度言った。
「来い!シェル!」
ロモソルーンの掛け声と同時に、シェルの眼の前で魔力の粒が弾けた。
とたんにシェルの全ての感覚がくっきりと確かな物に変わった。
不思議な感覚だった。
何も変わっていないのに、全てのものがガラリと変った。変わって見えた。

    
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