闇夜の星 暗闇の燈火(やみよの ほし くらやみの ともしび)

暗闇の灯火

◆◆◆◆３５

ロモソルーンの足は早かった。
確かにノンビリ歩いているわけでもないけれど、走っているわけでもないのに馬の駆け足はあろうかと思える位早かった。
「やっぱり、人間の体とはちょっと違うんだね」
後ろに流れる景色の美しさに見惚れながらシェルはしみじみと言った。
いくら相手がドラゴンだといえども、成人したばかりとはいえ、いい年した大人の男が一見人にしか見えないロモソルーンに抱き抱えられて運ばれるのには、シェルも抵抗が有った。
けれど、今は大人しくロモソルーンに抱き抱えられている事にした。
何せ、ロモソルーンのこの足の速さに自分がついて行けるわけがない。
何よりも、二人のこの甘い空気を壊したく無かった。
シェルは、ロモソルーンの肩に腕を回し直して、ロモソルーンが自分を運び易くなるように、二人の体の密着箇所を増やした。
「そりゃぁな。弱くなるつもりは無いと言ったろう？」
そういえば、ロモソルーンは初めてシェルに人間の様な体が欲しいと言った時、そんな様な事を言っていた。
抱きつくシェルの首筋に、ロモソルーンが一瞬顔を埋めて、深呼吸をした。
「良かった。ちゃんと発情してるな」
ロモソルーンもまた、シェルを抱え直して歩く速度を上げた。
自分の興奮を匂いで確認されたシェルは、再び顔を真っ赤に染めた。
二人が竜舎に到着するのは、あっという間だった。
ロモソルーンの新しい姿は、明るい所で改めて見ても、本当に見事なものだった。
美丈夫で、偉丈夫だった。
シェルの脳裏に、『ドラゴンの獣人』という単語が浮かんだ
「凄いね」
シェルは、ロモソルーンに見惚れて、ドキドキしてしまって、それだけ言うのがやっとだった。