闇夜の星 暗闇の燈火(やみよの ほし くらやみの ともしび)

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

文字の大きさ
上 下
351 / 432
暗闇の灯火

◆◆◆◆28

しおりを挟む
シェルは、その漆黒の男の手を握りしめながら抱きしめられていた。
「シェル、歌は今日はもう良い」
見た目に良く似合う、心地の良い低い声だった。
暗がりで見たので、肌が漆黒であるというだけの、普通(というにはあまりにも美丈夫であるが)の人間に見えたその男は、ちょっとよく見ると、明らかに人間にしては様子が変だった。
先ず後側頭に太く後方に波打つ漆黒の角がある。両目の斜め上辺りがキラキラと光を反射して、鱗が有る事が分かった。
よく見ると二の腕の外側も漆黒の鱗で覆われていた。
シェルは、見知らぬ男に抱きしめられていると言うのに少しも嫌だとは思わなかった。
そう言えばこの男、どう見ても男に見えるのだが、裸だと言うのに有るべき所に男の象徴が見当たらなかった。
まるでどこかに仕舞っているみたいに。
多分、乳首もない。
そして、何よりも目を引くのは、シェルがとても良く見慣れている優しい金色の目をしている事だった。
「ロモソルーン?」
恐る恐る、男を見つめながらロモソルーンの名を呼ぶと、男は快活にニカリと笑って。
「おう!ただいま!」
そう言った。
シェルが見慣れている、いつもの笑顔だった。
シェルはその笑顔を見て、金色の目に宿る優しい光を見て、やっと目の前の男がロモソルーンなのだと実感出来た。
シェルはロモソルーンの手を握りしめたまま、ヘナヘナとその場に崩れ落ちてしまった。
「シェル?」
慌ててロモソルーンがシェルを抱きとめた。
「ほ、ほっとしたら立ってられなくなっちゃって。どこにも力が入らない」
「うはははは!」
震える声で言うシェルを、ロモソルーンがあっけらかんと笑い飛ばした。
そして、まだ足腰の動きが覚束ないシェルを、ヒョイと軽々抱き上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...