闇夜の星 暗闇の燈火(やみよの ほし くらやみの ともしび)

暗闇の灯火

◆◆◆◆５

たまにゴメスが仕事で調教が無い日が続くと、薬が切れて正気に戻る。その時が一番辛かった。
はっきりとした頭で、自分が一体何をさせられたのか、何をされたのか分かってしまうから、一番辛かった。
シェルは未だ幼くて、分かってない事も多かったけれど、自分の尊厳をいう尊厳を全てズタズタにされた事は分かった。
頭では理解しきれていなくても、精神の方がズタズタで、心で理解できてしまった。
大人のギースは、知っている事も多かったから、もっと辛かったのだろう。媚薬には依存性は無かったのに、ギースは薬が切れ始めると、食事が与えられる小さな窓を叩いて禁断症状を起こしている薬物中毒者みたいに『薬をくれ』と、完全に薬が抜けて正気に戻るまで泣いてすがっていた。
黒い部屋での記憶は、絶望しかなかった。
薬に侵食されたドロドロとした曖昧な記憶の中で、黒ではないお互いだけが確かな物に思えた。
「あの時僕が死ななかったのは、本当に壊れてしまわなかったのは、きっとギースがいてくれたおかげなんだ」
シェルは手の中の魔石を見つめながら言った。
「そうか・・・その、好きだったのか？恋人同士だったとか？」
「まさか、僕ら鎖で部屋の端と端に繋がれていたから、指先すら触れあった事もないし、僕は子供で恋なんて分からなかったし、ギースはそういう感じの人じゃなかった。正気の時も、あの人は何て言うか何処か遠くを見つめている感じのする人だったから」
ロモソルーンに『恋人同士だったのか？』と質問されて、シェルは、焼きもち焼きのロモソルーンらしいその問いかけに、やはりそこを気にするのか、と思って、少し心がくすぐったく思えて微笑んだ。