闇夜の星 暗闇の燈火(やみよの ほし くらやみの ともしび)

暗闇の灯火

◆◆◆◆４

「ロモソルーンの言うとおり、ギースはとても綺麗な人だった。
　何て言うか、雰囲気の有る人で、体の線が細くて丸くて、真っ白な肌で、初めて見た時女の人かと思った位。
綺麗な赤っぽい茶色の髪がキラキラしてて、今でも印象に残ってる。
　お互いほとんど裸みたいな格好だったから、すぐに男だって気が付いたけど、確か、僕よりも十歳年上だとか言っていた。
少し舌足らずな感じの、訛りの有る喋しゃべり方だったから、地方の人なのかなって勝手に思ってた。
　僕達、境遇が境遇だったから、どっちも世間話なんてする気にならなかったから、あんまり詳しい事は知らないんだ。僕も話したくなかったし、話せる精神状態じゃなかった。
　大体、調教の度にゴメスに無理やり飲まされていた媚薬のせいで、大概いつでも頭もぼやっとしていたしね」
そうだ、あの部屋には黒い壁と天井と、ゴメスが出入りする為の黒い扉が一つと、ベッドと、トイレしかなかった。それから絶望。
窓もなくて、換気の為の小さな穴からすら一筋の光も入って来なかった。
シェル達は商品だったから、食事と衛生面だけはきちんとなされていた。
最初は食事や入浴の数で日にちを数えていたけれど、直ぐに分からなくなって止めた。
黒い壁に黒い絨毯、黒い扉、黒い天井、黒いベッド、二人してで調教で与えられた媚薬にのたうちまわりながら、扉が開く事に怯えていた。
「お互いが、お互いを心のささえにしていた。
　惨めなのは自分だけじゃないって思えた。別にそれで僕の何が良くなる訳じゃないけれど、孤独感は和らいでくれた」
二人の間には、何がしか連帯感の様な物が生じていた。