闇夜の星 暗闇の燈火(やみよの ほし くらやみの ともしび)

暗闇の灯火

◆◆◆４

祝詞が何度繰り返された頃だろうか、ミレニアの亡骸がすっかり花束と贈り物で埋まり、辛うじて顔だけが見えてる状態になった頃、最後の一人が花束の代わりに、花吹雪を降らせて祈りの列は終わった。人間達が墓穴から距離を取り、そして序列のメリスを筆頭にミレニアの墓穴の周囲で、座ってミレニアの亡骸を焼く役目が来るのを待っていたドラゴン達が一斉に立ち上がった。
宣教師が祝詞を唱え始めた。
そこで、アッシュレアが歩み出てきた。
「待って、もうひとつ、一緒に焼いて欲しいものが有るの」
そういうと、ドラゴン達の有無も聞かず、喪服のローブの下から、昨日ゴブリンを殺した鉈を一本取り出した。
そして、ローブのフードを脱いだ。
サァっと海風が流れてきて、ローブがはためいた。
アッシュレアの髪は、昨日と同じく低い位置で一つにひっつめて結われていた。
その髪も、風に舞った。
祝詞は止む事無く続いている。
アッシュレアは、きつく結んだ髪の結びをほどく事無く、力付くで少し下にずらすと、その髪の束をむんずと後ろ手に掴み、結びの所で鉈でザクリと切り落としてしまった。
きゃぁと、参列者の誰かが悲鳴を上げた。
トホスマ・スダで独身の者が髪を短く切るという事は、結構深刻な意味を示しているからだ。
必ずしもそうとは限らないが、トホスマ・スダの男女は髪が長い事が多い。
結婚式の時に思い思いの髪型に結って、男女どちらも金や宝石で出来た飾りを髪に飾るからだ。
「あの子、私の髪を結うのが好きだったの。もう綺麗に結ってくれる人も、長く伸ばす必要も無いから」
アッシュレアは、誰に言うともなくそういうと、切り落とした髪の束を穴の中の端に落とし、自分の位置へと下がって行った。