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アッシュレアの敵討ち

◆◆◆◆◆◆◆◆30

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後ずさったルメラを、ウォルターがそっと羽を広げて庇うように包んだ。
アッシュレアがそれを見て苦く笑う。
「幸せな家庭に育って、学問も何不自由無く獲得して、綺麗で才能に恵まれて、ドラゴン様に見初められて、愛しい人と夫婦になって子供にも恵まれて、人が望む殆どの幸せを手に入れた。手にしている貴女が、どのツラ下げてっ・・・。
私に、やっと手に入れたたった一つの幸せを、こんな絶望に満ちた形でむしりとられた私に向かって、どのツラ下げて『充分』だなんて言うんですか?」
血塗れののスカートを、血塗れの手で握りしめて、仲睦まじいドラゴンと人の夫婦を見つめながら、一歩半アッシュレアはその身を引いた。
アッシュレアに寄り添う者は、誰もいない。
「『気持ちが分かる』?はっ!
 例えば、例え、貴女が今持っている全てを私と同じ形で奪われたとしても、貴女に私の気持ちなんて絶対に分からない」
クツクツと泣いて笑いながら、それでもアッシュレアは語る事は止めなかった。
ボロボロの心と体で、それでも自分の足で立って、アッシュレアはゴブリンの方に向かってまた一歩ルメラから遠ざかった。
「だって過去は変えられないもの。愛されて、幸せに育った過去は変わらないもの。揺るぎ無い物を手に入れた貴女に、私の気持ちなんて絶対に分からない」
そうして体の向きを変えて、ゴブリンの死骸の方に歩いて行った。
「別に妬んでるわけでもないし、世間知らずとバカにしている分けでもないわ。だって私、知ってるの。
 何不自由無く育った汚れの無い人の明るさじゃなくちゃ、救えない魂が沢山あるって。
でも、この復讐に『充分』だなんて」
ゴブリンの死骸の前で足を止めると、首だけでルメラを振り返り、怒りに満ちた目を見開いて、アッシュレアはルメラを見据えた。
暗く揺るぎ無い怒りにその身を染めて、しっかと見据えて、そして、きっぱりと言い捨てた。
「貴女にだけは言われる筋合い無いわ」
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