闇夜の星 暗闇の燈火(やみよの ほし くらやみの ともしび)

アッシュレアの敵討ち

◆◆◆◆◆◆◆◆１８

「娘の仇だ！ソイツは！」
老婆は泣き顔でそう叫んだ。
老婆の娘ゴブリンに殺されたのは、もう何十年も前の事なので、厳密に言えば、今、アッシュレアに切り刻まれているゴブリンとは別のゴブリンなのだが、老婆にしてみればゴブリンは全て娘の敵だった。
それを皮切りに、観衆から次々と似たような声が上がり始めた。
「そうだ！なぶり殺しだ！」
「息子の仇を！」
「腐れゲス野郎を殺せ！」
「私の娘を返せ！」
「私の息子を！」
「父さんの仇を殺せ！」
「お母さんを殺したゴブリンを！」
「畜生を殺せ！」
「苦しんで死ねゴブリン！」
「なぶり殺しだ！」
「やれー！」
怒号は、あっという間にアチコチから上がる様になり、罵倒と怒声で広場はあふれ反った。
怒りと悲しみの熱で、焼けたフライパンみたいになっていった。
円陣を組んでいた竜騎士達の一部は、次第に、ゴブリンを閉じ込める為ではなく、熱狂した観衆が円陣の中に入るのを塞き止める壁の役割をしなければならないほどの興奮状態になった。
喧騒の中、アッシュレアは黙々とゴブリンの下腹部を切り刻んでいった。
生命力の強いゴブリンは、アッシュレアに突き刺される度に悲鳴を上げ、血の泡を飛ばした。
飛び散った血は、勿論、アッシュレアにも掛かった。
血まみれになりながら、自分に掛かった血液をぬぐいもせずに、ひたすらゴブリンを鉈で切り刻むアッシュレアの姿は、まるで、隣国の残忍で有名な兵士の様な有り様だとその場を見ていた誰もが思った。
あまりの気迫に、誰もがアッシュレアの鬼気迫る所業を止める事が出来なかった。
怯む竜騎士達を見て、ウォルターが言った。
「誰かの太陽を殺すっていうのは、こういう事さ。よく覚えておくといい」