闇夜の星 暗闇の燈火(やみよの ほし くらやみの ともしび)

アッシュレアの敵討ち

◆◆◆◆◆◆◆◆１７

ゴブリンの断末魔が広場に響き渡り、復讐劇の開幕を告げた。
「止とどめを刺してもらえるとでも思った！？」
深く突き刺した鉈を思いっきり抜き取ると、血飛沫ちしぶきが上がり、アッシュレアにもろにかかった。
ゴブリンがゴボゴボと血の泡を飛ばしながら絶叫を上げる。
アッシュレアの右肩から太ももまでに、一直線に鮮やかな赤で軌跡が描かれた。
引き抜いた鉈をそのまま闇雲に振り下ろすと、まるでお笑い劇の効果みたいにポーンとゴブリンの肉片が飛んで地面に落ち、コロコロと転がった。
「私はねぇ。ミレニアの仇を打つためにここにいるの。止めなんか刺さないわ！
　ミレニアが死ぬまで犯されたみたいに、お前は死ぬまで私に鉈でコレで切り刻まれるのよ！
　ミレニアと同じ所をね！」
左手の鉈も思い切り振り下ろされ、ゴブリンの残り少ない右太ももを更に刻んだ。
円陣に加わっている竜騎士達の反応は様々だった。
強いものほど腕を組み、アッシュレアを黙って見つめ、後陣の真ん中に配属される様な実力の者達は、目を背けたり隣とこそこそ話したりし始めた。
ドラゴン達は一様に、さして特別な感情を表情には出さず、ただアッシュレアの敵討ちを見つめていた。
そのドラゴンの足元に立つ後陣の部隊の竜騎士達がヒソヒソと話し始めた。
「こわっ。アッシュレアってあんなに気性の激しい女だったんだな」
「ありゃ男も寄り付かないはずだぜ」
口々に話している所で、どこからともなく老婆の声がした。
「いいぞー！アッシュレア！なぶり殺しにしてしまえー」
谷で雑貨屋を営む老婆だった。