闇夜の星 暗闇の燈火(やみよの ほし くらやみの ともしび)

アッシュレアの敵討ち

◆◆◆◆◆◆◆◆１６

得意げな顔で鍛冶屋の男が言った。
「等価交換と俺の肩入れを小さじ一杯加えてみた。アッシュレアが鉈の代金に持ってきたデカイ剣、元の持ち主は魔法使いでもあったんだろうな、柄が上質なオリハルコンでな、飾りがドラゴンの作った宝石みたいな魔石だった。
　父親の形見だとよ。覚悟決めてるじゃねぇか。
　好きだぜ、俺は、そういうヤツ」
鍛冶屋がニヤリと笑った。
ヴェスカは何も言わず、視線をアッシュレアとゴブリンに戻した。
アッシュレアがゴブリンを見下ろして言った。
「あんた達、靴に似た木の枝を使ってミレニアを誘き寄せたんですってね」
アッシュレアは自分の茶色い皮靴を見つめた。
履き慣れたお気に入りの革靴だった。
「もっと派手な靴を選べば良かった・・・」
悔しげに鉈の柄を握りしめた。
ギリリと音がして、ゴブリンが怯えて体をよじってなんとかアッシュレアから離れようとした。
一歩、アッシュレアがゴブリンに近づいた。
「一緒に行けば良かった。大した用事でもないのに、朝市に一人で行かせたりなんかして。
一緒に朝市に行けば良かった。いつもみたいに。用事なんて、後回しでも充分間に合ったのに」
ゴブリンは、相変わらず必死に体をよじっている。アッシュレアの魔法で吹っ飛ばされた、口が有った場所から、ゴボゴボと血の泡が溢れていた。
「ねぇ、ずいぶん怯えているけれど」
アッシュレアがまた一歩、ゴブリンに近づいた。
右手の鉈を振りかぶり、腰を落として構え、ひたと、怯えるゴブリンの目を見据えた。
「お前は何回、私のミレニアを犯したの？」
ヴンッという、空くうを切る音がしたかと思うと、次の瞬間、ゴブリンの下っ腹にアッシュレアの鉈が深々と突き刺さっていた。