闇夜の星 暗闇の燈火(やみよの ほし くらやみの ともしび)

アッシュレアの敵討ち

◆◆◆◆５

一歩家の中に入ると、ヴェスカの目前には、そこは本当にトホスマ・スダの片隅の田舎の民家の家の中なのかと疑いたくなる程の惨状が広がっていた。
人間の手の届く範囲という範囲の殆どの壁に血のりがついていた。
血濡れの手が着いた跡、飛び散った様な飛沫痕、血みどろの何かを引きずった様な床の血の痕跡。
「一人で入るのはヤバかったか？」
どう見てもオルクの母親一人の物とは思えない量の夥おびただしい血の跡に、流石の竜騎士一個小隊を率いているヴェスカも背筋を寒くした。
人間なんて、そうそう簡単に殺せる物じゃない。
どんなに戦う力の無い物でも、生物というものは生きる為に長い年月を経て進化してきたものだ。
生きる為に作られた体を、これほど大量の血液が出るまで切り刻むというのは至難の所業の筈だ。
ましてオルクの母親の状態になるまで切り刻むなんて、余程の手練れでも無い限り不可能だろう。
「オルク、いるか？」
返事を期待せず一応声をかけた。
シン・・・と静まり返る家の中が一層不気味に思えた。
ただ、人の気配は無い様に思えた。
「イヤ、これだけの惨状を作った犯人だ。気配を消す位容易かもしれん」
やはり一人で見まわるのは良くない気がして一旦引き返そうとした所へ、家の外からドヤドヤと人が来る気配がして来た。
直ぐに玄関方向から鎧が立てるガチャギャチャとした音と共に声が聞こえてきた。
「何だコレ・・・」
「うわぅ」
「おい！ヴェスカ。いるか？！」
ヴェスカは心底ほっとして
「おぅ！居るぞ。ここだ」
大声を上げた。ヴェスカが居たのは玄関から入って直ぐのリビングの様な所だった。