闇夜の星 暗闇の燈火(やみよの ほし くらやみの ともしび)

落ち葉と魚

◆◆７

「そんな事言ったら人間だって山羊を育てる時山羊の気持ちが分かるし、肉にするために絞める時恐怖に慄いている事を知っているわ。釣り上げた深海魚が殺されまいと必死に足掻いている事も漁師は知っている。樹木に詳しい人間は樹木を見て触るだけでその樹木にその時どんな世話が必要なのかも知っている。これは動物同士で言ったら意思疎通が出来ている事に該当すると思うの、でもね。山羊も樹木も深海魚も人間の気持ちは分からないでしょう？」
それはそうだ、だから山羊はその直前まで人間に素直に従うし、樹木はそもそも脳を持たないのだから理解しようが無い、深海魚に人間の意思が解るならば深海魚は人間に釣り上げられるなんて事無くなるはずだ。
ルメラがヒタリとシェルの瞳を見つめ問いかけた。
「ねぇ、シェル君」
「ドラゴンが私たちの意思を完璧にくみ取ってくれるからと言って、どうして私達人間がドラゴンの意思を完璧に理解していると思うの？ドラゴンの言語も喋れないのに・・・。ドラゴンはこの世界に生きとし生ける様々な動物の言葉を操るのよ？」
「・・・え？」
ルメラの問いかけにシェルは戸惑った。
だってそれは、だってそれはトホスマ・スダの常識では無かったのか・・・。
「私達が笛でやっと集合解散を教えている山羊を操るのも、深海魚を海の表面に呼び寄せるのも、ドラゴンはいとも簡単に私達人間より上手にやってのけるわ。何だったらゴブリンの言葉ですら分かるそうよ、ドラゴンは。でも人間はドラゴン語なんて複雑過ぎて殆ど分からない、魔法だってドラゴンの方がずっと知識を持っているわ。匹敵できるのはあの有名な魔法研究機関『ウロボロス』位よ。知ってる？トホスマ・スダのドラゴンの成獣の条件に『トホスマ・スダの人間の言語が話せる様になる事』という条件が入っているけれど、ドラゴンの心身の成長に人間の言葉が話せるかどうかなんて本当は関係無いのよ、トホスマ・スダのドラゴンで有る限り人間とのコミュニケーションが必須だから条件として入ってるだけなの。」