闇夜の星 暗闇の燈火(やみよの ほし くらやみの ともしび)

星空

◆◆７

こうして、シェルの幸せだった生活は終わった。
シェルの奴隷落ちの執行は次の日の夜に行われた。
しとしとと冷たい霧雨の降る中、シェルはあられもない姿でロバに括り付けられ城下町中を引き回された。
夜の闇に紛れた者達から小石を始め様々な物が投げつけられた。
引き回しが終わった頃にはシェルはドロドロに汚れ、奴隷以外の何者にも見えない姿になっていた。
引き廻しの最終地点である城下町の広場には国王までも来ていたが、シェルを一瞥するなりくるりと背を向けて帰って言った。
「何だ？あの汚らしい醜い子供は、美少年なのでは無かったのか！せっかく余の寝所使えとして召し上げてやろうと思ったのに要らぬわ！」
そんな声が聞こえて来た。
そうしてロバが止められた所にゴメスが居た。
シェルは括り付けられたロバごとゴメスに引き渡された。
「やれやれ、又国王陛下に奴隷を献上させられる所でした。さ、行きますよ」
そう言って、ゴメスがシェルが括り付けられているロバの手綱を引いて歩きだした時、ふいに強く手綱を引かれたロバが驚いて少し跳ねた。
ロバが跳ねた衝撃でシェルの躰が跳ね、今までずっと地面とロバの背を見ていたシェルの視線がフイに広場の中を泳いだ。
広場で見せしめにさらされていた両親の亡骸がシェルの視界に入った。
広場中央の舞台の上に無造作に置かれたその亡骸は、もうどちらがどちらの躰だったのか分からない位残酷に潰されていた。
父親の顔ですら半壊していた。
この国では、反逆罪は何より重い罪の一つで犯人は即死刑、死体は市民が辱める習わしになっている。
手心を加えようものなら騎士団に反逆者の仲間と疑われる為、皆必死で侮辱するのだ。
シェルだって国民だったのだから知っている。
そうなる事は予想していた。
でも・・・・・・・。
「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁっあああぁぁああっ」
両親の無残な姿を目にしたとたん、シェルは大声で泣いた。
酷い姿でロバに括り付けられ、石や生卵や泥を投げつけられても一声も泣かなかったのに。
シェルの泣き声は町中に響きわたりいつまでも響いていた。