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星空

◆◆4

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氷の様に冷たい雨の中シェルは滅茶苦茶に走った。
頭の中は真っ白だった。
ショックが大きすぎて理解が付いて行かない
父親の・・・何故父親の首だけが階段下に転がって来たのだろう。
体はどこにあったのだろう、自分は幻覚でも見たのだろうか?。
思春期の特に男子は良く見るらしい、自分もそれだろうか?。
そうか、自分は病んだのか。・・・あれ?。
じゃぁ何で母親はあんな必死の形相で『逃げなさい』なんて言ったんだ?。
訳が分からない。
何で自分が走っているのかも分かっていなかった。
さっき目前で見た恐ろしい光景が脳裏を過る。
叫ぶ母親、その後ろでひるがえる白金、その大きな剣を振り上げたのはこの国で唯一国旗と同じグリフォンを刻んだ鎧を付ける事を許された、自分が夢に見る程憧れた騎士団長ではなかったか
そこから後は、能が思い出す事を拒否した。
「お母さん・・・・!」
まるで実感が湧かなかった。
声にならない呻き声を漏らしながらシェルは必死にとにかく走った。
行く当てなんて無かった。
走って走ってとにかく走って、精も魂も尽き果てたシェルが潜り込んだのは自分が通う学校の敷地内だった。
物置小屋の軒先の下に入り込み、冷たい雨から逃れたが体は既にずぶ濡れで服や髪にしみ込んだ雨がどんどん体温を奪って行った。
寒さはシェルの動く力を容赦なく奪い、このままではたとえ誰にも見つからなくとも明日の朝までには凍死してしまうだろう。
薄れそうな意識で『まぁ、それも良いか』と思ってしまった時、ガチャリと音がして、虚ろな瞳を上に動かすと
滴る鮮血で彩られた悪魔の顔が浮かぶ鎧が視界を占拠した。
「あ・・・く・・ま・・」
思わずシェルの口から呟きが漏れる。
鎧はその声にピタリと止まり、
「ん?」
という低い声と共に大きな掌がヌゥっと現れ、雑に鎧の鮮血をぬぐった。
鮮血をぬぐった後に鎧の上に現れたのは国旗と同じグリフォン。
「ひっ」
シェルが小さく声を上げた。
鎧の男が深淵を湛えた暗い瞳でニヤリと笑う
「面白い仕掛けだろう?戦場ではな、こんな小さな仕掛けが意外と効くのさ」
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