闇夜の星 暗闇の燈火(やみよの ほし くらやみの ともしび)

ロモソルーンには秘密がある

◆◆◆◆６

「な・・無いはずだ。雛は孵化した時からの記憶しか持たない。」
返答を聞いたとたんシェルの強ばった表情がふっと和らいで笑顔になる。そうして
「よかった。じゃぁロモソルーンは1000年の孤独の記憶は無いんですね。」
そう言ってあっけに取られたウォルターに背を向けて帰って行った。
今日はロモソルーンが一緒では無いので早めに帰らないと街中を通り抜けるのが難しくなってしまう。
シェルの足取りは軽かった。
ロモソルーンに辛い記憶が無いと分かったし。(まさか1000年も一人ぼっちだったとは思わなかったけど・・)
それに目論見通り明日の飲み会は一人でグエンの相手をしなくて済む。
これで、悪夢も多少弱まるだろう・・・あれ？
僕、昨夜悪夢で起きたっけ・・・・？。
いいや、悪夢は見た。それで・・・酔っぱらってて朦朧もうろうとして・・・。
何か、とても凄い夢を見た気がするんだけど・・・。
昨夜の、淫らで甘い夢は、ついぞシェルの脳内で再生される事は無いまま住みかにたどり着いた。

あとにはポカンとしたウォルターだけが残った。
そうして、
「あなた。せいぜい生きて帰ってらして下さい。」
「うん？」
ルメラの立つバルコニーの外側には話の一部始終を漏れ聞いていたロモソルーンが憤怒の視線を投げていた。
自分の愛しい世話係に何余計な事を吹き込んでんだ。
ロモソルーンの目がそう語っていた。
孵化して５年の、己よりもまだずっと小さいドラゴンの雛にウォルターは気圧され一歩退いた。
ロモソルーンは・・・その1000年の孤独を耐え抜いた、煌めく黒い鱗を纏うドラゴンは、低く、低く約500歳年上のドラゴンに選択を迫る。
『選べ、ウォルター。暴露と決闘とどちらをケジメとする？』
ウォルターは・・・嗤った。