闇夜の星 暗闇の燈火(やみよの ほし くらやみの ともしび)

竜騎士（ドラゴンナイト）

◆◆◆１

谷の人間でドラゴンと深く関わる人間が世話係の他にもう一つ有る。
それが竜騎士、ドラゴンの背に乗り共に戦う男達だ。
世話係と違って竜騎士は男性のみで構成されていて女はいない。
これは建国以来の国の法律となっている。
長い歴史の中で、竜騎士に女性を起用するか否かという議論が何度も行われたが法律が撤廃される事は無かった。
激しい殺し合いを行う戦場下では竜騎士の精神だってギリギリの状態なのだ。
グエンはその竜騎士で、谷最強と評判名高い。
竜騎士は基本的に気の合うドラゴンとペアやチームを組んで戦闘に臨のぞむ、しかしグエンは余りに戦闘能力が高すぎるのか相性の良いドラゴンがおらず、その日欠員が出たチームのピンチヒッターや未だ組む相手のいないドラゴンの仮の相手として長い事戦闘に参加している。
口には出さないがきっとグエンはロモソルーンを相棒にしたいと思っているのだろうとシェルは察していた。
これはロモソルーンにとっても悪い話ではない。
ロモソルーンは強い。普通、卵から孵ってたった５年で、しかも成獣にもなっていないのに個別の竜舎を持つ事なんて出来ない、これは既にロモソルーンが番をもつ成獣並みの能力を保持している事を物語っていた。
事実、谷でのロモソルーンのドラゴン間での地位も年々上がっている様に見える。
今年の春辺りから町にいる戦闘以外の仕事を担っている成獣のドラゴンの中に下位のドラゴンが上位のドラゴンに示す礼をとり始めている者が数匹出てきた。
ロモソルーンの強さは年上のドラゴンが認めるほどに成っているのだ。
これでロモソルーンの相棒が谷一番と名高いグエンになったら成獣になった暁には序列になる事も夢では無いだろう。
仲良くしておいた方が良いに決まっている。
「グエンさん・・・。いらっしゃい。ロモソルーンに御用ですか？」
だが、シェルはこの男がとても苦手だった 。
「やぁ。シェル、今日も綺麗だね。ロモソルーン様のお世話・・・をしているのかな？」
入り口の縁にもたれる様をとりながらグエンの体がシェルに近づいてきて不快感でシェルの腕に鳥肌がたつ。
シェルはロモソルーンの世話係なんだからロモソルーンの竜舎にいる今おせわをしているに決まっているではないか、とも思う。
きっとロモソルーンに取り入りたくて先ずはシェルと仲良くなろうとしているのだろう。
グエンは最近度々こんな取って付けた様な妙な含みの有りそうな言い回しをする。
シェルはそれも嫌だった。
この勿体ぶった言い方はゴメスが好んで使っていた話法だ。
『さぁ。お前のために特別に用意した極太の旦那様・・・だよ。たっぷりご奉仕しようねぇ・・ふふふ』
吐き気と一緒に一瞬悪夢が甦る。その後何をさせられたのかも、その時の感覚も・・・。
グエンと話すとシェルは一番思い出したくない事を思い出す羽目を見る。
何よりグエンの纏まとう空気が、シェルの奴隷仲間のギースを無理矢理蹂躙していた傭兵のダムドに似た所があり、どうにも受け付ける事が出来ずにいた。
グエンがシェルに何か意地悪したわけでは無いが出来れば関わって来て欲しくないと思っている。
「ロモソルーンに御用なのでしたら、呼んで来ますが？それともお入りになりますか？」