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闇夜の星
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世界の西の最果てに、ドラゴンを信仰し、その一生をドラゴンに捧げる民が住まう国がある。
そんなおとぎ話がある。
吟遊詩人が美しい物語にして街道で歌った歌は、夜、子供たちに語り聞かせる寝物語や童話へと昇華され、民衆に語り継がれていた。
かくいうこのシェルも未だ両親が生きていた頃、寝物語に母から聞かされたものだった。
曰く、悪い子はドラゴンマスターに捕まりドラゴンの餌にされる。
曰く、大昔魔物の王を倒した勇者がその国の出身で、魔物の王を倒すときドラゴンが相棒だった。勇者はその後の人生をドラゴンに捧げた。
その末裔が今のドラゴン信仰の国の民である。
曰く、ドラゴン信仰の国の民はドラゴンの力の恩恵を受け、皆角が有る。
長寿である。フェアリーと同じ位長生きで、ゴブリンみたいに醜い。
・・・・よくもまぁ好き放題言ったモノだと今にしては思う。
国の名前はトホスマ・スダ、後から知った。
寝物語の中では昔々のどこかの国という設定だったので実際にその国に偶然来たときに初めて知ったのだ。
しかし、まぁ。
よもや、自分が正にその国の住人になり、さらにはそのドラゴンの世話係になろうとは夢にも思わなかったな、と、シェルは干し草のベットの中でクスリと笑った。
枕は自分が世話する漆黒のドラゴンの腹だ。
名を「ロモソルーン」という、シェルが着けた。
シェルの故郷の方言で、夜空という意味が有る単語だ。
初めてロモソルーンを見たとき漆黒の体に煌めく鱗の光の反射がまるで星が瞬く夜空の様だと思いそう名付けた。
初めて会ったロモソルーンを思い出しながら、シェルはロモソルーンのお腹に頬擦りした。
ドラゴンの国は寒冷地に近い気候で、シェルが住む地域は中でも標高が高い、つまり寒い。人間よりもずっと体温が高いドラゴンの腹は実に心地いよい温源であり枕だった。
シェルの漏らした笑う気配に敏感に反応したドラゴンがのそり、と器用に首だけ動かして鼻面でシェルの頬を撫でた。
「何でもないよ。ちょっと思い出してたんだ。」
その言葉にロモソルーンは一瞬止まって金色の瞳を揺らめかせさらにスリスリと頬に鼻面を寄せた。
大きな舌がベロリとシェルの頬を一回舐めた。
・・・・涙が無いか確かめたのだろう。
「アハハハッ、くすぐったいよ。ロモソルーン、違うよ、大丈夫、あの時の事を思い出した訳じゃ無いよ。もっと子供の時の事を思い出してたんだよ。」
大事な世話係が悪夢にうなされて泣いていた訳ではないと確認したロモソルーンは気を良くして今度はシェルの体のアチコチをつついて擽り出した。
未だ雛であるせいかロモソルーンはその見た目に反して陽気で甘えッ子でいたずらっ子なのだ。
「あ、イヤァッ、くすぐったいよ!。あぁ!コラ!そんな所舐めるな!ヒャハハハッ」
じたばたと己の腹の上でもがくシェルに
ニヤーっと笑ったロモソルーンは調子に乗って洋服の中にまで舌をさし込み擽り出した。
キャーっとシェルのはしゃぐ声が夜の竜舎に響く。
ロモソルーンは一頭小屋を保持できる強さのドラゴンだから他のドラゴンに怒られる心配は無かった。
キャッキャとひとしきりはしゃいでふと小窓の向こうを見るともう空が白み始めていた。
夜明けだ。
「今からもう一度眠るのはもったいないね。起きようかロモソルーン」
賛成、っと言うかの様にロモソルーンが
「ぶふぅ」と鼻を鳴らして竜舎に特別に据付けた竈に火を吹いた。
人間がやったら時間がかかる火起こしもドラゴンがやれば一吹きだ。
「有難う!」
ロモソルーンの頬にお礼のキスをするとロモソルーンは満足そうに目を細めた。
そんなおとぎ話がある。
吟遊詩人が美しい物語にして街道で歌った歌は、夜、子供たちに語り聞かせる寝物語や童話へと昇華され、民衆に語り継がれていた。
かくいうこのシェルも未だ両親が生きていた頃、寝物語に母から聞かされたものだった。
曰く、悪い子はドラゴンマスターに捕まりドラゴンの餌にされる。
曰く、大昔魔物の王を倒した勇者がその国の出身で、魔物の王を倒すときドラゴンが相棒だった。勇者はその後の人生をドラゴンに捧げた。
その末裔が今のドラゴン信仰の国の民である。
曰く、ドラゴン信仰の国の民はドラゴンの力の恩恵を受け、皆角が有る。
長寿である。フェアリーと同じ位長生きで、ゴブリンみたいに醜い。
・・・・よくもまぁ好き放題言ったモノだと今にしては思う。
国の名前はトホスマ・スダ、後から知った。
寝物語の中では昔々のどこかの国という設定だったので実際にその国に偶然来たときに初めて知ったのだ。
しかし、まぁ。
よもや、自分が正にその国の住人になり、さらにはそのドラゴンの世話係になろうとは夢にも思わなかったな、と、シェルは干し草のベットの中でクスリと笑った。
枕は自分が世話する漆黒のドラゴンの腹だ。
名を「ロモソルーン」という、シェルが着けた。
シェルの故郷の方言で、夜空という意味が有る単語だ。
初めてロモソルーンを見たとき漆黒の体に煌めく鱗の光の反射がまるで星が瞬く夜空の様だと思いそう名付けた。
初めて会ったロモソルーンを思い出しながら、シェルはロモソルーンのお腹に頬擦りした。
ドラゴンの国は寒冷地に近い気候で、シェルが住む地域は中でも標高が高い、つまり寒い。人間よりもずっと体温が高いドラゴンの腹は実に心地いよい温源であり枕だった。
シェルの漏らした笑う気配に敏感に反応したドラゴンがのそり、と器用に首だけ動かして鼻面でシェルの頬を撫でた。
「何でもないよ。ちょっと思い出してたんだ。」
その言葉にロモソルーンは一瞬止まって金色の瞳を揺らめかせさらにスリスリと頬に鼻面を寄せた。
大きな舌がベロリとシェルの頬を一回舐めた。
・・・・涙が無いか確かめたのだろう。
「アハハハッ、くすぐったいよ。ロモソルーン、違うよ、大丈夫、あの時の事を思い出した訳じゃ無いよ。もっと子供の時の事を思い出してたんだよ。」
大事な世話係が悪夢にうなされて泣いていた訳ではないと確認したロモソルーンは気を良くして今度はシェルの体のアチコチをつついて擽り出した。
未だ雛であるせいかロモソルーンはその見た目に反して陽気で甘えッ子でいたずらっ子なのだ。
「あ、イヤァッ、くすぐったいよ!。あぁ!コラ!そんな所舐めるな!ヒャハハハッ」
じたばたと己の腹の上でもがくシェルに
ニヤーっと笑ったロモソルーンは調子に乗って洋服の中にまで舌をさし込み擽り出した。
キャーっとシェルのはしゃぐ声が夜の竜舎に響く。
ロモソルーンは一頭小屋を保持できる強さのドラゴンだから他のドラゴンに怒られる心配は無かった。
キャッキャとひとしきりはしゃいでふと小窓の向こうを見るともう空が白み始めていた。
夜明けだ。
「今からもう一度眠るのはもったいないね。起きようかロモソルーン」
賛成、っと言うかの様にロモソルーンが
「ぶふぅ」と鼻を鳴らして竜舎に特別に据付けた竈に火を吹いた。
人間がやったら時間がかかる火起こしもドラゴンがやれば一吹きだ。
「有難う!」
ロモソルーンの頬にお礼のキスをするとロモソルーンは満足そうに目を細めた。
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