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時計塔の鐘の始まりの歌7
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「魔女って、あの絵本に出て来る魔女の事か?魔獣だか魔族だかの肉を好んで食べる種族だったけか?有名な歌があったよな。えーっと俺直ぐウロボロスの騎士団見習いになっちまったからよ、あまり覚えてねぇのよ。『火を焚き邪悪なる者をいぶり出せ』だっけか?」
「そうそう、ソレソレ。童話『魔女の踵』な。『来たれサバトの扉 今一人の魔女が扉を開かん 踊れ魔法使い共 暗黒に眩まされた真実を 太陽の元に引きずり出せ 開けサバトの扉 魔女が邪な魔獣の血肉を頬張らん』ってやつよ。」
店主は歌いなれているのか、まるで紙芝居でも読むかのように韻を踏み抑揚をつけてスラスラと歌って見せた。
しかし、リリィは首を捻って言葉を続けた。
「魔女はドラゴンの獣人と一緒で空想上の人種だろ?女しか生まれない種族なんてありえねぇだろ。」
「ははは、そうさ、流石に魔族の肉を好んで食べるなんて気持ち悪い人種は居ねぇさ、だがな種族じゃない魔女は、恐らく・・・居る。」
呑気な笑顔の顔が一変して、頑固そうな魔導師の顔となり店主は言った。
「種族じゃ無い魔女?」
「あぁ・・・魔女と呼ばれる存在は居る。少なくともサバトは有る。俺は今まで二回サバトに巻き込まれた事が有る。あれは恐ろしかったなぁ・・・。」
「サバト」
「昔な、とある国の魔導研究施設に勤めていた事が有った。その国は隣の国と長年戦争をしていてな、戦争での勝利を優先する余りスタッフの情緒面での教育を怠ってしまった。結果、実力が有り、人間的に上に立つ素養の有る者から辞めて行ってしまってな、王立の魔導研究機関だというのに、中はだいぶ酷い状態だったよ。とくに人間関係が崩壊していてなぁ・・・一人の新人が犠牲に成りそうになった。もうだめかと思ったその時にな、居室の天井イッパイに扉が現れたかと思ったらギシギシと開き、巨大な目玉が現れた。瞳孔部分から幾本もの手が出て来たかと思ったら居室の魔法使い数名と雑務一人が消えた。消えた奴らは皆、部下に甘い上司も眉を顰める様な問題行動を繰り返すやつらばかりだったよ。その時聞こえたんだこの童話の歌が、二回ともだ。少し違うがこの歌だった。」
「実際聞いた歌は覚えてます?」
「覚えると言うか書き留めた。」
店主が一枚の髪を引き出しから引っ張り出して来た。
魔女の踵が掻き鳴らされた
魔女の踵が掻き鳴らされた
魔術は例外なく密やかに
魔女を見つける事は出来ない
魔女は何処にでも現れる
眠る赤子の枕元 死にゆく罪人の夢枕
魔女は何処にも現れない
泣き縋る乙女の指先 騎士の偽りの正義の横
魔女はある日突然生じ、そして消えた
魔女は必ず訪れる
邪悪なる者のつま先に
神が顔をそむけたその元に
来たれサバトの扉
子供達に目隠しを 男どもに眠りを
ただ火を焚け 邪悪なるものを燻り出せ
踊れ魔法使い共
今、暗黒に眩まされた真実を
太陽の下に引きずり出さん
開けサバトの扉
魔女が悪魔の血肉を頬張らん
「・・・・踵を鳴らす音が聞こえたんだ。アチコチから。大勢の踵の音だった。歌も大勢の声が歌っていた。真にサバトだったよ・・・。」
その時の光景を思い出したのか、少し青ざめながら店主は話す。
「それで・・・魔女を見たんで?」
「いや、結局魔女が本当に居るのか分からなかったよ。あの扉も何だったのか、ただ。消えた魔法使いと雑務職員の行っていた悪事が明るみに成り、騒ぎが収まった頃、ウロボロスが俺をスカウトに来た。」
「要領がつかめねぇなぁ。そのサバトと俺達の『始まりの鐘』と何か関係があるんで?」
「さぁな、お前を見てたら何だか話したくなったんだ。子供の頃聞けなかった寝物語を今聞かされているんだとでも思ってくれ。俺はな、最初ウロボロスこそが魔女の組織だと思っていたんだ。・・・・違ったがな。」
「そりゃそうでしょう。俺もかなりウロボロスは長いが、魔女の話なんて今日初めて耳にした。」
真顔でリリィがそういうと、店主はリリィを小さな子供でも見るかの様な瞳でふふふと笑った。
「童話ってのはナカナカ馬鹿に出来ねぇ物だ。この話も覚えていると良いさ。何の役にも立たねぇだろうが、役に立つ時も有るかも知れねぇ。昔話ってのはそういう物だ。あるいは・・・。」
「あるいは?」
「謎の継承をしたかったのかも知れねぇなぁ・・・。時々チラリと現れる、魔女という存在の欠片が何なのか。」
「俺、頭悪いから謎解きなんか出来ねぇぜ?」
「サナリアが隣にいれば問題無いだろう。さぁもう行くと良い。愛しい人が待っているんだろう?話の続きがしたければ又店に遊びに来ると良い。夜は店横の扉が開いて酒場になるんだ。」
「それは知らなかったな。サナリアを誘ってみるよ。」
「ははは!そりゃぁ良いや『日食』って看板がうちの店だ。きっと来いよ!」
『始まりの鐘』の最中だっていうのに、何の特別な祝いの言葉も無く、いつもの様に見送られてリリィは店を出た。
「そうそう、ソレソレ。童話『魔女の踵』な。『来たれサバトの扉 今一人の魔女が扉を開かん 踊れ魔法使い共 暗黒に眩まされた真実を 太陽の元に引きずり出せ 開けサバトの扉 魔女が邪な魔獣の血肉を頬張らん』ってやつよ。」
店主は歌いなれているのか、まるで紙芝居でも読むかのように韻を踏み抑揚をつけてスラスラと歌って見せた。
しかし、リリィは首を捻って言葉を続けた。
「魔女はドラゴンの獣人と一緒で空想上の人種だろ?女しか生まれない種族なんてありえねぇだろ。」
「ははは、そうさ、流石に魔族の肉を好んで食べるなんて気持ち悪い人種は居ねぇさ、だがな種族じゃない魔女は、恐らく・・・居る。」
呑気な笑顔の顔が一変して、頑固そうな魔導師の顔となり店主は言った。
「種族じゃ無い魔女?」
「あぁ・・・魔女と呼ばれる存在は居る。少なくともサバトは有る。俺は今まで二回サバトに巻き込まれた事が有る。あれは恐ろしかったなぁ・・・。」
「サバト」
「昔な、とある国の魔導研究施設に勤めていた事が有った。その国は隣の国と長年戦争をしていてな、戦争での勝利を優先する余りスタッフの情緒面での教育を怠ってしまった。結果、実力が有り、人間的に上に立つ素養の有る者から辞めて行ってしまってな、王立の魔導研究機関だというのに、中はだいぶ酷い状態だったよ。とくに人間関係が崩壊していてなぁ・・・一人の新人が犠牲に成りそうになった。もうだめかと思ったその時にな、居室の天井イッパイに扉が現れたかと思ったらギシギシと開き、巨大な目玉が現れた。瞳孔部分から幾本もの手が出て来たかと思ったら居室の魔法使い数名と雑務一人が消えた。消えた奴らは皆、部下に甘い上司も眉を顰める様な問題行動を繰り返すやつらばかりだったよ。その時聞こえたんだこの童話の歌が、二回ともだ。少し違うがこの歌だった。」
「実際聞いた歌は覚えてます?」
「覚えると言うか書き留めた。」
店主が一枚の髪を引き出しから引っ張り出して来た。
魔女の踵が掻き鳴らされた
魔女の踵が掻き鳴らされた
魔術は例外なく密やかに
魔女を見つける事は出来ない
魔女は何処にでも現れる
眠る赤子の枕元 死にゆく罪人の夢枕
魔女は何処にも現れない
泣き縋る乙女の指先 騎士の偽りの正義の横
魔女はある日突然生じ、そして消えた
魔女は必ず訪れる
邪悪なる者のつま先に
神が顔をそむけたその元に
来たれサバトの扉
子供達に目隠しを 男どもに眠りを
ただ火を焚け 邪悪なるものを燻り出せ
踊れ魔法使い共
今、暗黒に眩まされた真実を
太陽の下に引きずり出さん
開けサバトの扉
魔女が悪魔の血肉を頬張らん
「・・・・踵を鳴らす音が聞こえたんだ。アチコチから。大勢の踵の音だった。歌も大勢の声が歌っていた。真にサバトだったよ・・・。」
その時の光景を思い出したのか、少し青ざめながら店主は話す。
「それで・・・魔女を見たんで?」
「いや、結局魔女が本当に居るのか分からなかったよ。あの扉も何だったのか、ただ。消えた魔法使いと雑務職員の行っていた悪事が明るみに成り、騒ぎが収まった頃、ウロボロスが俺をスカウトに来た。」
「要領がつかめねぇなぁ。そのサバトと俺達の『始まりの鐘』と何か関係があるんで?」
「さぁな、お前を見てたら何だか話したくなったんだ。子供の頃聞けなかった寝物語を今聞かされているんだとでも思ってくれ。俺はな、最初ウロボロスこそが魔女の組織だと思っていたんだ。・・・・違ったがな。」
「そりゃそうでしょう。俺もかなりウロボロスは長いが、魔女の話なんて今日初めて耳にした。」
真顔でリリィがそういうと、店主はリリィを小さな子供でも見るかの様な瞳でふふふと笑った。
「童話ってのはナカナカ馬鹿に出来ねぇ物だ。この話も覚えていると良いさ。何の役にも立たねぇだろうが、役に立つ時も有るかも知れねぇ。昔話ってのはそういう物だ。あるいは・・・。」
「あるいは?」
「謎の継承をしたかったのかも知れねぇなぁ・・・。時々チラリと現れる、魔女という存在の欠片が何なのか。」
「俺、頭悪いから謎解きなんか出来ねぇぜ?」
「サナリアが隣にいれば問題無いだろう。さぁもう行くと良い。愛しい人が待っているんだろう?話の続きがしたければ又店に遊びに来ると良い。夜は店横の扉が開いて酒場になるんだ。」
「それは知らなかったな。サナリアを誘ってみるよ。」
「ははは!そりゃぁ良いや『日食』って看板がうちの店だ。きっと来いよ!」
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