魔獣の姫に黒の騎士

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

文字の大きさ
上 下
112 / 124

時計塔の鐘の始まりの歌7

しおりを挟む
「魔女って、あの絵本に出て来る魔女の事か?魔獣だか魔族だかの肉を好んで食べる種族だったけか?有名な歌があったよな。えーっと俺直ぐウロボロスの騎士団見習いになっちまったからよ、あまり覚えてねぇのよ。『火を焚き邪悪なる者をいぶり出せ』だっけか?」
「そうそう、ソレソレ。童話『魔女の踵』な。『来たれサバトの扉 今一人の魔女が扉を開かん 踊れ魔法使い共 暗黒に眩まされた真実を 太陽の元に引きずり出せ 開けサバトの扉 魔女が邪な魔獣の血肉を頬張らん』ってやつよ。」
店主は歌いなれているのか、まるで紙芝居でも読むかのように韻を踏み抑揚をつけてスラスラと歌って見せた。
しかし、リリィは首を捻って言葉を続けた。
「魔女はドラゴンの獣人と一緒で空想上の人種だろ?女しか生まれない種族なんてありえねぇだろ。」
「ははは、そうさ、流石に魔族の肉を好んで食べるなんて気持ち悪い人種は居ねぇさ、だがな種族じゃない魔女は、恐らく・・・居る。」
呑気な笑顔の顔が一変して、頑固そうな魔導師の顔となり店主は言った。
「種族じゃ無い魔女?」
「あぁ・・・魔女と呼ばれる存在は居る。少なくともサバトは有る。俺は今まで二回サバトに巻き込まれた事が有る。あれは恐ろしかったなぁ・・・。」
「サバト」
「昔な、とある国の魔導研究施設に勤めていた事が有った。その国は隣の国と長年戦争をしていてな、戦争での勝利を優先する余りスタッフの情緒面での教育を怠ってしまった。結果、実力が有り、人間的に上に立つ素養の有る者から辞めて行ってしまってな、王立の魔導研究機関だというのに、中はだいぶ酷い状態だったよ。とくに人間関係が崩壊していてなぁ・・・一人の新人が犠牲に成りそうになった。もうだめかと思ったその時にな、居室の天井イッパイに扉が現れたかと思ったらギシギシと開き、巨大な目玉が現れた。瞳孔部分から幾本もの手が出て来たかと思ったら居室の魔法使い数名と雑務一人が消えた。消えた奴らは皆、部下に甘い上司も眉を顰める様な問題行動を繰り返すやつらばかりだったよ。その時聞こえたんだこの童話の歌が、二回ともだ。少し違うがこの歌だった。」
「実際聞いた歌は覚えてます?」
「覚えると言うか書き留めた。」
店主が一枚の髪を引き出しから引っ張り出して来た。

魔女の踵が掻き鳴らされた
魔女の踵が掻き鳴らされた
魔術は例外なく密やかに
魔女を見つける事は出来ない
魔女は何処にでも現れる
眠る赤子の枕元 死にゆく罪人の夢枕 
魔女は何処にも現れない
泣き縋る乙女の指先 騎士の偽りの正義の横
魔女はある日突然生じ、そして消えた
魔女は必ず訪れる
邪悪なる者のつま先に
神が顔をそむけたその元に

来たれサバトの扉
子供達に目隠しを 男どもに眠りを
ただ火を焚け 邪悪なるものを燻り出せ
踊れ魔法使い共
今、暗黒に眩まされた真実を
太陽の下に引きずり出さん
開けサバトの扉
魔女が悪魔の血肉を頬張らん

「・・・・踵を鳴らす音が聞こえたんだ。アチコチから。大勢の踵の音だった。歌も大勢の声が歌っていた。真にサバトだったよ・・・。」
その時の光景を思い出したのか、少し青ざめながら店主は話す。
「それで・・・魔女を見たんで?」
「いや、結局魔女が本当に居るのか分からなかったよ。あの扉も何だったのか、ただ。消えた魔法使いと雑務職員の行っていた悪事が明るみに成り、騒ぎが収まった頃、ウロボロスが俺をスカウトに来た。」
「要領がつかめねぇなぁ。そのサバトと俺達の『始まりの鐘』と何か関係があるんで?」
「さぁな、お前を見てたら何だか話したくなったんだ。子供の頃聞けなかった寝物語を今聞かされているんだとでも思ってくれ。俺はな、最初ウロボロスこそが魔女の組織だと思っていたんだ。・・・・違ったがな。」
「そりゃそうでしょう。俺もかなりウロボロスは長いが、魔女の話なんて今日初めて耳にした。」
真顔でリリィがそういうと、店主はリリィを小さな子供でも見るかの様な瞳でふふふと笑った。
「童話ってのはナカナカ馬鹿に出来ねぇ物だ。この話も覚えていると良いさ。何の役にも立たねぇだろうが、役に立つ時も有るかも知れねぇ。昔話ってのはそういう物だ。あるいは・・・。」
「あるいは?」
「謎の継承をしたかったのかも知れねぇなぁ・・・。時々チラリと現れる、魔女という存在の欠片が何なのか。」
「俺、頭悪いから謎解きなんか出来ねぇぜ?」
「サナリアが隣にいれば問題無いだろう。さぁもう行くと良い。愛しい人が待っているんだろう?話の続きがしたければ又店に遊びに来ると良い。夜は店横の扉が開いて酒場になるんだ。」
「それは知らなかったな。サナリアを誘ってみるよ。」
「ははは!そりゃぁ良いや『日食』って看板がうちの店だ。きっと来いよ!」
『始まりの鐘』の最中だっていうのに、何の特別な祝いの言葉も無く、いつもの様に見送られてリリィは店を出た。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
 大陸を制覇し、全盛を極めたアティン帝国を一夜にして滅ぼした『大災厄』―――正体のわからぬ大災害の話は、御伽噺として世に広まっていた。  うっかり『大災厄』の正体を知った魔術師――ルリアージェ――は、大陸9つの国のうち、3つの国から追われることになる。逃亡生活の邪魔にしかならない絶世の美形を連れた彼女は、徐々に覇権争いに巻き込まれていく。  まさか『大災厄』を飼うことになるなんて―――。  真面目なようで、不真面目なファンタジーが今始まる! 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※2022/05/13  第10回ネット小説大賞、一次選考通過 ※2019年春、エブリスタ長編ファンタジー特集に選ばれました(o´-ω-)o)ペコッ

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...