魔獣の姫に黒の騎士

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

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時計塔の鐘の始まりの歌1

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それは、サナリアがプロポーズをした日から丁度一週間が経過した日の事だった。
朝から街中に普段とは聞きなれない時計台の鐘の音が鳴り響いた。
特別なメロディを奏でる鐘の音は、特別な事が起こる時に演奏される。
その意味が分かる大人たちは、他人事なのに浮足だって噂をし、何も知らない子供達は大人達にメロディの意味を聞く。
商店街のお手伝いをしていた子供が、店主の女性にやはり聞いた。
「ねぇ、叔母さん、時計台が聞いた事無い鐘鳴らしてる。時間もいつもの鐘を鳴らす時間じゃないよ、何?これ。」
「これは、『始りの鐘』って言ってね、街の誰かが正式に結婚の承諾をする時に鳴らすメロディなんだよ、珍しいね、こんな大がかりな物は五年ぶりじゃないかな。しかし綺麗な音だねぇ・・・時計塔が歌っているみたいだ・・・。」
「おおがかり?」
「承諾をする方がね、結婚を申し込んだ者が隠した物を見つけるんだ。探している間は答えを翻しても良いんだよ。『やっぱやーめたっ』ってね。時々隠すのが下手なヤツが居てね。探す方が何日も掛かっちゃう時も有るんだよね。馬鹿だよねこんなの唯の儀式みたいなモンなんだから、ちゃんと事前に申し合わせ無くちゃ、お前は失敗するんじゃないよ。たとえ相手が高熱にうなされてても見つけられる位に応えを先に教えておきなさい。」
「何を隠すの?」
「大概は結婚や婚約の印の腕輪か二人がこれから住む家の鍵だねぇ。探す範囲はどこの鐘を鳴らしたかで来まる。探す範囲は承諾をする方が決めるから大体は二人の家で小さなベルを鳴らす事になるんだけど、今回の人は大きく出たね、時計台ならこの街全体が宝探しの舞台という事になるよ。絶対直ぐには見つからないだろうからしばらくお祭り騒ぎでウチの品物も売れるよ、さぁ、掻き入れ時だよ。お店の手伝い張り切っとくれ!。」
そんな会話がアチコチの露店や商店街で交わされ、街は一気に活気が増した。

一方ウロボロスでは、例の『首飾り』をしていないリリィが建物のアチコチをキョロキョロしながら物探し風で歩き回っていた。
何が起こっているのか周知のウロボロス職員は時折『見つかりそうか?大事な首輪』などと揶揄からかいながらすれ違って行った。
それに愛想を返しながら
「・・・・皆目隠し場所が思いつかねぇ・・・・。」
少し途方に暮れていた。

今朝、街中に響き渡らせていた『始りの鐘』はリリィが鳴らさせた物だった。
始りの鐘の承諾の印はプロポーズしてきた相手の隠した物をプロポーズされた相手が探し出し、隠した方に手渡す事、すなわち今回はサナリアが隠した物をリリィが見つけ出し、手渡す事で承諾の意を示した事になる。戦果の絶えないグイネバルドでは久しく結婚式を行う事が少ない、この『始りの鐘』が実質結婚式の様な物だ。
この催しの発生は小さな村で、村中を花婿が花嫁の隠した腕輪を探し回る(ふり)をする事で村中に自分達の結婚を知らせたらしい。
そしてサナリアが隠したのは、リリィの新しい首飾りだった。
最初、サナリアの匂いを辿って探せば直ぐに見つかるだろうと高をくくっていたリリィは、ありとあらゆる所を歩き回り、自分の気配を分散させた手口に翻弄されていた。

魔道部の棟を探し終わったリリィは一つ溜息を吐いて今度は雑務や運営、それから諜報部が入ってる運営部棟へと足を向けた。

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