魔獣の姫に黒の騎士

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

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魔獣の姫に黒の騎士12

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「純血の血を持っているのは最早お前だけじゃないか!」
「何が純血ですが馬鹿らしい、血の濃さに縋りついて戦に負けた弱小国の筆頭の一族の血ですよ。」
「お前があと少し成長していたら、帝国の侵略も阻止できたのではないのか!?」
「歴史にもしもなんて有りません、有るのは残された事実だけです。起きた事は変えられない、魔法の王国ラメシャンは血の濃さに拘るばかりに自分達の弱体化している部分の強化がおろそかになり、結果全てを失い、殺され、滅んだのです。私達の国はもうこの世界の地図から消え、おとぎ話になってしまったのですよ。」
気丈に、サナリアが言い切る。
そこでリリィは、あの悪夢に出て来た利発な子供は、そう言えば、目の前の恋人の昔の話であったと思い出した。
齢およそ五、六歳と云った所だったろうか、未だ母に甘えたい盛りの頃に、全てを打ち砕かれた小さな小さな王子。
一体どれ程の絶望を抱えて子供の頃を生き抜いたのか、『救いは有ったのか?』と過ぎた事に思いを馳せる。
二人の言い争いに口を挟んだのはバルだった。
「おい、何でお前が二人の婚姻についてそんなに口出ししてるんだ?まるで保護者じゃねぇか。」
「俺はコイツの最初の身元引受人だ!」
「かと言ってもうアルテミナ研究員は良い大人で」
「お前はラメシャンの紅がどんなに貴重な物か知らないからそんな事が言えるんだ!」
「魔力の強さの事を言ってるのか?そんなんお前だってラメシャンじゃ無いのにアルテミナ研究員と差しで勝負できるほど魔力があるじゃねぇか。」
「俺もラメシャンなんだよ!」
「「え!?」」
バルとリリィが驚愕の声をそろえて上げた。
「俺もラメシャンの国民だったんだ。混血児なんだ・・・・。俺は平民だったが、辛うじて家系を追える王の末端の血筋で、国が亡ぶ前にウロボロスに就職したんだ。」
「だって・・・髪の色が・・・いや、時折光の加減で赤く輝く美しいブラウンだと思ってはいたが・・・・・。」
「これか、ラメシャンでの血筋は本来、魔力が高い程赤くなるが、珍しく魔力に髪の色が比例しなかったんだ。恐らく母方が黒髪で、魔力が強い人だったからだろうな。ラメシャンの赤い髪の者の魔力は世界広しと言えども他に類を見る事は無い、濃い紅なら尚更!これが見過ごせるか!!」
「では、二人は元々知り合いで?」
リリィが問うと、クイブの代わりにサナリアが応えた。
「いいえ、この人は私が生まれる前に国を出てますし、そもそも血がつながっていると言っても末端の血族の平民と国王が懇意にする事など何か余程の事が無い限りあり得ません。ラメシャンでは王の血はとても重大な物だったのでとても厳しく管理されていたのです。」
「国王王妃の魔力がそのまま国の戦力と守りに直結するからな。混血はそれだけで、基本関わりを避ける。何せとなりは凶悪な帝国、国王の魔力次第で全国民の命を左右するからな。」
「クイブ何度でも言いますが、国はもう無いんですよ。結局血だけを守った所で意味など無かったのです。」
「意味ならあったさ、帝国に囚われたラメシャンの国民が奴隷の呪いに掛かり切らなかったのは、生まれて直ぐに行われる簡易的な王族に対する血の儀式で、既に主が決まっていたからだ。だが血が混じったらその効力も薄れる。」
「リリィの他に、私の相手が誰が居るっていうんですか!!!そもそも血が混じる血が混じるって何で子供が出来る前提で話してるんですか!?作るつもり有りませんけど!?」
「帝国に囚われているラメシャン人はどうする積もりだ!?あれらが帝国の呪いに完全に掛かり切らなかったのは、古の王家の血筋との契約が有るからじゃないか!血が途絶えたらあいつら本物の奴隷に成っちまうんだぞ!!」
「あなた本当に諜報員ですか?そんな物、とっくの昔に無効になる様魔術を仕込んでるに決まってるじゃないですか。」
「は!?」
本当に知らなかったのか、クイブが驚いた顔で声を裏返した。
「私が当初何の為に動植物専攻したと思ってるんですか?採取を理由に遠方に出張出来るからですよ。以前帝国の近くに行ったでしょう、あの時に帝国全土に仕掛けてやりましたよ、呪い解除の術式をね。ラメシャン人だけ助けてる時間は有りませんでしたから、奴隷紋全てに利くようにしてやりました。意外に混乱は無かったようですがね。さぁ、これで、師匠の拘る混血の問題は片付きましたね。他にラメシャンの血に拘る理由が有りますか?」
「うるさいうるさいうるさいっ!分かってるだろ?!オメェの方が分かってる筈だ!!コイツ何年生きるかも分からねぇんだぞ!。」
クイブがその言葉を言い放ったのは、徐々にヒートアップする二人の言い合いに、周囲も気を利かせて席を立ったり、逆に聞き耳を立て始めた時だった。
一瞬にして食堂が凍った様に静まりかえった。
少し興奮気味のクイブは構わず言葉を続ける。
「キメラの寿命は突然来るんだよ!!。寿命違いで無理やり混ぜた生物別の、部分死による体の壊死でキメラはいつ死ぬか分からねぇ。そうだろ、動植物専攻のお前が知らねぇワケネェだろう。ソイツ自体はキメラじゃねぇが両親がキメラだ、相当な短命のな。どうなるかなんて・・・」
「それを本人の前で言いう人がいますかーー!!。」
パーン!と派手な音とともに、クイブの頬がサナリアによって叩かれた。
一瞬にして火が付いた様に激昂したサナリアを押さえたのはリリィ。
「離しなさいリリィ!!このジジィ、今回だけは許さない!。」
「サナリア、良いんだ。その通りだから。知っている。前に聞いたんだ。」
「・・・・何ですって?・・・・。」
サナリアが呆然と自分を羽交い絞めにする男を振り返った。

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