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魔獣の姫と黒の騎士9

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「俺に新しいアダ名が付いた?」
リリィの『一生サナリアだけ抱く』宣言から三、四日経った頃、昼飯時に福団長のバルがそんな話を持って第一騎士団団長室にやって来た。
「『魔獣ガルゴ』だそうですぜ。」
若干肩を震わせながらバルは言った。
「アルテミナ研究員に着いている団長の臭いの付き様を目の当たりにした獣人系の職員が口を揃えて言っい出してな『毎日毎日あんな尋常じゃない臭いの付け方して、どんだけ激しい事すればあんな事になるんだ!鬼畜か、けだものと言うのもけだものに失礼だ。あんなの魔獣の所業だ。キモ。』だそうだ。」
「・・・・合意は取っている。」
「よくあの華奢なアルテミナ研究員が耐えてるな。」
「傷をつけない様には気をつけていいる。ただ・・・。」
「ただ?」
「異常に歯止めが効かない自覚は有る。未だかつてない程。」
「未だかつてない程・・・・・。今までの噂以上って事か?」
バルが引きつった顔でリリィの言葉を繰り返した。
リリィも事の異常さは分かっているのか気まずそうに目を逸らせた。
「・・・・何?その切羽詰まり具合。」
「知らん。発情期で無いのが救いな位だ。我ながら恋を知ったばかりのローティーンみたいだという危機感は有る。相手の事を思いやれない馬鹿じゃ有るまいし、サナリアに負担を掛けたい訳でも無いがまるで熱に浮かされたみたいに求めずには居られない。」
盛大な溜息と共に両手にリリィが顔を埋めた。
「しかもアイツ、折角こちがセーブ掛けようとしてるのに煽るんだぜ!毎回毎回朝起きる前に自分に回復魔法かけてる癖に!」
「・・・・流石は発情期を乗り切って出来た恋人だな・・・。」
バルの頬が又ヒクリと引きつった。
「いかん、思い出しそうだ。ちょっと鍛錬所行って体力だけでも使って来るわ・・・。今日必要な分の書類はそこの終了箱に入れてある。勝手に持ってってくれ、係の者には不備が無いか再度確認する様指示を忘れずにな。終わったら鍛錬場に来てくれると有難い、俺の相手まともに出来るの今の所第一騎士団の中じゃお前位だ。」
そう言ってリリィは実技鍛錬場へと向かって行った。
「・・・いい塩梅に体温まってアルテミナ研究員に合う頃にはベストコンディションなんて事に成ってそうな気がするがなぁ。」
まぁ、二人が仲が良いと自分の恋人も気が散らないし、俺も最近鍛錬する相手に不足してて全力を出して模擬戦出来る相手が居なかったし、渡りに船では有るなと考えて、バルも書類を事務方に届けると鍛錬場へ向かった。

サナリアがリリィを迎えに鍛錬場へ行く頃には、そこは模擬刀とは思えない激しい戦闘音が響き渡り、騎士団中の人間が見物に来ていた。
「まるで武術大会の決勝戦ですね。」
サナリアの口から独り言がこぼれた。
鍛錬場はにわかコロシアムと化し、戦闘会場となってる中心部は二人の武将の全力攻撃で穴だらけになっていた。
「すげぇ。どうやって今の一振り出たんだ?!」
「大剣使ってるのに団長の太刀筋が殆ど見えねぇ・・・。」
「第一騎士団団長になるにはあそこまで出来ねぇと成れねぇのか・・・」
見物人達のあちらこちらから声が漏れる。騎士団のメンバーは後でその出来た大穴を自分達が修繕しなければならないという事も忘れて滅多に拝めない第一騎士団団長グイネバルド最強の戦士第一騎士団副団長最強次席の本気の戦闘に見入っていた。
「ふんぬらばぁ!!」
バルがひと際重い大剣の模擬刀を力いっぱい振り下ろせば。
「ぬんっ」
掛け声と共に右手の大剣でリリィが受け止め力を脇に流しつつ受け止めた大剣を押し返す。
「おおお!」
押し返された大剣の勢いを回転で攻撃に転じたバルが角度を変えて更に攻めれば今度はリリィがその剣を左手に持った大剣で叩き落とした。
ギィィンという辺りに響き渡る金属音と共にバルの大剣が土に着いたとたんそこが爆ぜて鍛錬場には又一つ大きな穴が空いた。
見物人がどよめく
「すげえ・・・」
「あれ、人の頭に当たったら頭が爆発するな・・・」
「俺、あの二人とだけは喧嘩したくねぇ。」
「・・・俺、今日で失恋した事にする。この恋は諦める。」
誰に懸想していたのか、見物に来ていたどこかの騎士団団員がボソリと言った。

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