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サナリアの悪夢14
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また、場面が変わった。
今度は自分の子供の頃住んでいた場所だった。
懐かしい風景が砂っぽい匂いのする空気と共に広がっていく。
戦場の直ぐ近くに住んでいて。
戦火に怯えて子供達はいつも決められた所でしか遊べなかった。
大人たちはいつもピリピリとしていた。
戦場が近いこの街では男達の収入源はやはり戦や鉱山でとれる燃える石で、自分の父親は確か戦闘が無い時を見計らっては鉱山に潜って燃える石を採掘してきていた。
たまに宝石も出て来て街で売ったりもしていたが、食べれもしない装飾品は、大した金にならないし、春の祭りの近くにならないとあまり売れもしなかった。
・・・・子供の頃は自分も父の様に炭鉱夫に成るつもりだった。
母が殺されるまでは・・・・・。
「これ、何時頃の夢なんだ?」
自分の体を確かめると、体の大きさは元と変わらない位に戻っている。
始めて戦に出た時に作った傷跡が在るという事は現代なのかも知れない。
試しに母の骨を納めた教会の納骨堂に行ってみた。
骨を納められた者の名前を刻む納骨堂の扉に母の名前が有ったので、やはり自分だけが現実世界に戻ったのでは無く夢の舞台も現実の世界に戻ってきた様だ。
折角母の魂を天へと見送った教会に来たので教会で祈りを捧げて行く事にした。
礼拝堂の前にたどり着くと、一組の家族と出くわした。
礼拝堂の中から出て来た所の様だ。
生まれたばかりの赤ん坊を抱える母親、その母のエプロンの端を掴みながら父と手をつないでいる男児。自分もあの位の時はあんなだったな、と懐かしく思い、目を細めて道を譲った。
母親が気が着いて軽く会釈をしてくれた。
父親と男の子は会話に夢中だ。
「そうさ、父ちゃんは強いんだぞ!迫りくる敵をバッサバッサと切り殺し!」
「父ちゃん強いんだね!。」
「当たり前だ、父ちゃんだぞ!今年だって祭りが開けたら敵兵をバンバン殺してやる!」
「わぁ!」
グイネバルドではごく普通の会話だった。
しかし、つい声をかけてしまった。
「人を殺す話をしているのに、何でそんなに胸を張って話せるんだ?。」
「・・・・はい?」
突然見知らぬ男に話しかけられた一家は、変な物を見る目で自分を見た。
「平和を司る神に祈りを捧げた直後に、年端もいかない自分の子供にを殺す話をしているのに、アンタ何も疑問を感じねぇのか?」
男の顔がみるみる不機嫌になった。
そこで我に返った。
何を言っているのだ自分は、そんな簡単な話じゃ済まない事は、この国で生まれ育った自分が一番知っているではないか。
「あ、いや、すまねぇ。そんな話じゃねぇんだよな。ごめん。」
慌てて謝る自分を見て、子供を抱えた母親が小さく『あなた。』っと呼びかけ自分が背にしている納骨堂の方を目配せした。
父親が『あ。』っと小さく声を漏らし、『ちっ』っと舌打ちすると、何も言わず家族を連れて去って行った。
何も気が着いていない子供が声を張り上げて誇らしげに宣言をしている。
「大きくなったら僕も父さんみたいに敵を沢山殺すんだ!。」
覚えたての感情に振り回されて、まるで正義を振りかざすみたいに正論を投げつけてしまった自分を恥じた。
礼拝堂に入り膝を負って神々の姿が描かれた天井を見上げた。
この教会は多神教なので沢山の神の姿が描かれている。
かつて魔王を倒した勇者も様々な姿に身を変えていたという話だ。
もしかしたら、勇者とはこの神々が交代で降臨した姿なのかも知れないと思った。
天井に描かれた神々の中には、子供の姿をしている物も少なくなかった。
「俺だって・・・・。」
思考を止め、上の言う事を鵜呑みにして、敵兵に母を殺した奴らを重ね、戦場で嬉々として剣を突き立てていた自分はその先は口には出せなかった。
『好きで殺していた訳じゃない』なんておこがましくて言えなかった。
「きっと俺が殺した奴らにも――――――。」
家族もいただろうし、きっと何か守る物が有ったのだ。
命を掛ける程に大切に思うものが何か・・・・。
大人になった今、自分はもう知っている。
「この国の戦はきっと」
無意味だ・・・しかし、止める事も不可能なのだ。
『金色の螺子』の様な奴らが納める国になるのを防ぐ為には・・・今のグイネバルドには戦い続けるしか術が無いのだ。
辺りがふっと暗くなった。
「何だ?」
ぼう・・・と五メートル位前方に先のウロボロスの魔導士がいた。
「あんた・・・・いや俺か?」
袈裟懸けに切られたままの姿で無表情に立っている。
「あんた一体何がしたいんだ!?もう良いだろう!止めてくれ!俺に俺の罪を見せつけるな!この国の戦争は複雑過ぎて、もう止める事なんか出来やしねぇんだよ!!」
泣き叫んで訴えた。
血みどろの自分の顔がまた瞬間移動して目の前に来る。
「うわっぁ!」
切り崩された自分の顔はどうにも慣れなくて分かっていても怯んで尻もちを突いた。
割けた口の喉の奥から声が聞こえる。
「本当に?」
「何なんだよ、ったくよぉ!」
「本当にそう思う?ちゃんと考えた?」
「だから何か言いたいんだよ、お前はよぉ!」
思考せよ 全てを飲み込む蟒蛇よりも貪欲に
刮目せよ 髑髏よりもその瞳を見開いて
探求せよ 有るべき真実を 惰性を己に許すな
模索せよ 最適解を 生きる命を生きるべき場所へ
足掻け 魂の灯を未来へつなぐために
そこでようやく悪夢から解放された。
今度は自分の子供の頃住んでいた場所だった。
懐かしい風景が砂っぽい匂いのする空気と共に広がっていく。
戦場の直ぐ近くに住んでいて。
戦火に怯えて子供達はいつも決められた所でしか遊べなかった。
大人たちはいつもピリピリとしていた。
戦場が近いこの街では男達の収入源はやはり戦や鉱山でとれる燃える石で、自分の父親は確か戦闘が無い時を見計らっては鉱山に潜って燃える石を採掘してきていた。
たまに宝石も出て来て街で売ったりもしていたが、食べれもしない装飾品は、大した金にならないし、春の祭りの近くにならないとあまり売れもしなかった。
・・・・子供の頃は自分も父の様に炭鉱夫に成るつもりだった。
母が殺されるまでは・・・・・。
「これ、何時頃の夢なんだ?」
自分の体を確かめると、体の大きさは元と変わらない位に戻っている。
始めて戦に出た時に作った傷跡が在るという事は現代なのかも知れない。
試しに母の骨を納めた教会の納骨堂に行ってみた。
骨を納められた者の名前を刻む納骨堂の扉に母の名前が有ったので、やはり自分だけが現実世界に戻ったのでは無く夢の舞台も現実の世界に戻ってきた様だ。
折角母の魂を天へと見送った教会に来たので教会で祈りを捧げて行く事にした。
礼拝堂の前にたどり着くと、一組の家族と出くわした。
礼拝堂の中から出て来た所の様だ。
生まれたばかりの赤ん坊を抱える母親、その母のエプロンの端を掴みながら父と手をつないでいる男児。自分もあの位の時はあんなだったな、と懐かしく思い、目を細めて道を譲った。
母親が気が着いて軽く会釈をしてくれた。
父親と男の子は会話に夢中だ。
「そうさ、父ちゃんは強いんだぞ!迫りくる敵をバッサバッサと切り殺し!」
「父ちゃん強いんだね!。」
「当たり前だ、父ちゃんだぞ!今年だって祭りが開けたら敵兵をバンバン殺してやる!」
「わぁ!」
グイネバルドではごく普通の会話だった。
しかし、つい声をかけてしまった。
「人を殺す話をしているのに、何でそんなに胸を張って話せるんだ?。」
「・・・・はい?」
突然見知らぬ男に話しかけられた一家は、変な物を見る目で自分を見た。
「平和を司る神に祈りを捧げた直後に、年端もいかない自分の子供にを殺す話をしているのに、アンタ何も疑問を感じねぇのか?」
男の顔がみるみる不機嫌になった。
そこで我に返った。
何を言っているのだ自分は、そんな簡単な話じゃ済まない事は、この国で生まれ育った自分が一番知っているではないか。
「あ、いや、すまねぇ。そんな話じゃねぇんだよな。ごめん。」
慌てて謝る自分を見て、子供を抱えた母親が小さく『あなた。』っと呼びかけ自分が背にしている納骨堂の方を目配せした。
父親が『あ。』っと小さく声を漏らし、『ちっ』っと舌打ちすると、何も言わず家族を連れて去って行った。
何も気が着いていない子供が声を張り上げて誇らしげに宣言をしている。
「大きくなったら僕も父さんみたいに敵を沢山殺すんだ!。」
覚えたての感情に振り回されて、まるで正義を振りかざすみたいに正論を投げつけてしまった自分を恥じた。
礼拝堂に入り膝を負って神々の姿が描かれた天井を見上げた。
この教会は多神教なので沢山の神の姿が描かれている。
かつて魔王を倒した勇者も様々な姿に身を変えていたという話だ。
もしかしたら、勇者とはこの神々が交代で降臨した姿なのかも知れないと思った。
天井に描かれた神々の中には、子供の姿をしている物も少なくなかった。
「俺だって・・・・。」
思考を止め、上の言う事を鵜呑みにして、敵兵に母を殺した奴らを重ね、戦場で嬉々として剣を突き立てていた自分はその先は口には出せなかった。
『好きで殺していた訳じゃない』なんておこがましくて言えなかった。
「きっと俺が殺した奴らにも――――――。」
家族もいただろうし、きっと何か守る物が有ったのだ。
命を掛ける程に大切に思うものが何か・・・・。
大人になった今、自分はもう知っている。
「この国の戦はきっと」
無意味だ・・・しかし、止める事も不可能なのだ。
『金色の螺子』の様な奴らが納める国になるのを防ぐ為には・・・今のグイネバルドには戦い続けるしか術が無いのだ。
辺りがふっと暗くなった。
「何だ?」
ぼう・・・と五メートル位前方に先のウロボロスの魔導士がいた。
「あんた・・・・いや俺か?」
袈裟懸けに切られたままの姿で無表情に立っている。
「あんた一体何がしたいんだ!?もう良いだろう!止めてくれ!俺に俺の罪を見せつけるな!この国の戦争は複雑過ぎて、もう止める事なんか出来やしねぇんだよ!!」
泣き叫んで訴えた。
血みどろの自分の顔がまた瞬間移動して目の前に来る。
「うわっぁ!」
切り崩された自分の顔はどうにも慣れなくて分かっていても怯んで尻もちを突いた。
割けた口の喉の奥から声が聞こえる。
「本当に?」
「何なんだよ、ったくよぉ!」
「本当にそう思う?ちゃんと考えた?」
「だから何か言いたいんだよ、お前はよぉ!」
思考せよ 全てを飲み込む蟒蛇よりも貪欲に
刮目せよ 髑髏よりもその瞳を見開いて
探求せよ 有るべき真実を 惰性を己に許すな
模索せよ 最適解を 生きる命を生きるべき場所へ
足掻け 魂の灯を未来へつなぐために
そこでようやく悪夢から解放された。
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