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サナリアの悪夢13
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二年の月日が経ち、子供は自分が住んで来た所に戻ってきた。
幼心に、自分は城の中に住んでいるのに、何でこんなに森の中で生活する為の訓練ばかりさせられるのだう、とずっと不思議に思っていたが、母に、臣下に剣術体術そっちのけで強く教え込まれた術は、全て生き残る為に役に立ってくれた。
食べられる木の実の探し方、冬越しに必要な保存食の作り方や必要な量、魔法を使って狩をする方法、狩った動物の捌き方。
こんな小さな体で武術なんか習っていたって絶対何の役にも立たなかった。
自分を育ててくれた全ての人に感謝をし、そしてそれゆえに尚更あの血まみれの金の鎧の狂った獣の様な目をした男達に憎しみを募らせた。
絶対敵をとってやる。
幻術で身を隠しながら移動してやっとたどり着いたかつての自分の庭は、敵国の市民で溢れていた。
城は殆ど崩され、朽ちていて、城の敷地は町として利用されていた。
しかも、自国の赤い髪の民が混じっていた・・・・。奴隷として。
しかしその表情は明るかった。
首には逆らえば死ぬかと思う程の苦痛が与えられ、尚抗えば首が落とされる呪いの奴隷紋が刻まれているが、まるで同じ町民の様に敵国の街の人間達と談笑しながら買い物までしているではないか、
「これ・・・どうゆう事?」
訳が分からずフラフラと影を伝いながら見つからない様に街中に紛れて様子を伺った。
噴水近くの木陰に身を隠すと、近くのベンチに紅い髪の女性と、敵国の国民と思われる男が座った。
男は殊更女性を丁寧に扱っていた。
まるで父が母をエスコートする時の様だと思った。
二人はベンチで手に手をとって見つめ合い、抱き合ってキスをし始めた。
男が女性の首をなぞった。
「助けてあげられなくて済まない。俺は君を自分の奴隷としてしか守術が無い。」
「良いの、心の自由は私達の王子がくれたわ、それに、私、貴方を愛しているもの・・・。」
「しかし・・・。」
「生まれた子供にも、この紋は受け継がれてしまうのかしら?・・・なら、私、子供は産めない・・・。」
「いいや、王の魔法はそこまで強くない、というかそっちの国の高位の魔導師でも無い限り、そんな術をしっている物は居ないのではないか?」
「・・・・私の国にだってそんな魔術は無いわ、魔術と呪術は似て非なる物だから、もしかしたら有るのかもと思ったの、良かった。奴隷身分の私の子供でも普通の国民になれるのね。」
「俺が国民だからな。奴隷同士の子供は暫くは無理だろう、赤い髪のこの国の国民が増えないと奴隷の子供と直ぐバレる・・・・。」
そんな話を聞きながら、子供は周囲を見回した。
見れば周りには至る所に自国民と敵国民のカップルがいた。
身を守るために、奴隷になった自国民は意識的に敵国の国民の恋人になる事を選んだのかも知れない、中には鎧を着た物と仲睦まじくしている者までいた。
「ぁんま!ぁんま!」
真っ赤な髪の子供が茶色い大きな男の方へヨチヨチと懸命に足を動かして寄って行く、男はしゃがみ込んで両手を伸ばして腕の中に子供を受け止めた。
横には深紅の髪の美しいおんなが佇んでいる。ショックだった。
ズルズルとその場に座り込み、膝を抱えて静かに泣いた。
もはや自分の帰る所なんて何処にも無いのだ悟った。
「あの日の悪夢は何だったんだ。何の為に・・・」
何の為に皆死んだのだ。
こんなに幸せそうに暮らすなら、降伏でも和平でも結んで血なんかさっさと混ぜてしまえば良かったのだ。
目の前を茶色い毛の家族が幸せそうに歩いて行く、子供の顔はとても幸せそうだった。
・・・・あの二年前のあの日までの自分の様に・・・。
「ぼくがこの街を焼いたら、あの子たちも死ぬのか・・・。」
憎しみは消えない、しかしあの幸せそうに笑う懸命に生きている家族には罪はない。
きっと、たとえ自分があの時の金色の鎧の男一人を見つけ出してたった一人だけ殺しても罪の無い誰かが死ぬのだ。
幼心に、自分は城の中に住んでいるのに、何でこんなに森の中で生活する為の訓練ばかりさせられるのだう、とずっと不思議に思っていたが、母に、臣下に剣術体術そっちのけで強く教え込まれた術は、全て生き残る為に役に立ってくれた。
食べられる木の実の探し方、冬越しに必要な保存食の作り方や必要な量、魔法を使って狩をする方法、狩った動物の捌き方。
こんな小さな体で武術なんか習っていたって絶対何の役にも立たなかった。
自分を育ててくれた全ての人に感謝をし、そしてそれゆえに尚更あの血まみれの金の鎧の狂った獣の様な目をした男達に憎しみを募らせた。
絶対敵をとってやる。
幻術で身を隠しながら移動してやっとたどり着いたかつての自分の庭は、敵国の市民で溢れていた。
城は殆ど崩され、朽ちていて、城の敷地は町として利用されていた。
しかも、自国の赤い髪の民が混じっていた・・・・。奴隷として。
しかしその表情は明るかった。
首には逆らえば死ぬかと思う程の苦痛が与えられ、尚抗えば首が落とされる呪いの奴隷紋が刻まれているが、まるで同じ町民の様に敵国の街の人間達と談笑しながら買い物までしているではないか、
「これ・・・どうゆう事?」
訳が分からずフラフラと影を伝いながら見つからない様に街中に紛れて様子を伺った。
噴水近くの木陰に身を隠すと、近くのベンチに紅い髪の女性と、敵国の国民と思われる男が座った。
男は殊更女性を丁寧に扱っていた。
まるで父が母をエスコートする時の様だと思った。
二人はベンチで手に手をとって見つめ合い、抱き合ってキスをし始めた。
男が女性の首をなぞった。
「助けてあげられなくて済まない。俺は君を自分の奴隷としてしか守術が無い。」
「良いの、心の自由は私達の王子がくれたわ、それに、私、貴方を愛しているもの・・・。」
「しかし・・・。」
「生まれた子供にも、この紋は受け継がれてしまうのかしら?・・・なら、私、子供は産めない・・・。」
「いいや、王の魔法はそこまで強くない、というかそっちの国の高位の魔導師でも無い限り、そんな術をしっている物は居ないのではないか?」
「・・・・私の国にだってそんな魔術は無いわ、魔術と呪術は似て非なる物だから、もしかしたら有るのかもと思ったの、良かった。奴隷身分の私の子供でも普通の国民になれるのね。」
「俺が国民だからな。奴隷同士の子供は暫くは無理だろう、赤い髪のこの国の国民が増えないと奴隷の子供と直ぐバレる・・・・。」
そんな話を聞きながら、子供は周囲を見回した。
見れば周りには至る所に自国民と敵国民のカップルがいた。
身を守るために、奴隷になった自国民は意識的に敵国の国民の恋人になる事を選んだのかも知れない、中には鎧を着た物と仲睦まじくしている者までいた。
「ぁんま!ぁんま!」
真っ赤な髪の子供が茶色い大きな男の方へヨチヨチと懸命に足を動かして寄って行く、男はしゃがみ込んで両手を伸ばして腕の中に子供を受け止めた。
横には深紅の髪の美しいおんなが佇んでいる。ショックだった。
ズルズルとその場に座り込み、膝を抱えて静かに泣いた。
もはや自分の帰る所なんて何処にも無いのだ悟った。
「あの日の悪夢は何だったんだ。何の為に・・・」
何の為に皆死んだのだ。
こんなに幸せそうに暮らすなら、降伏でも和平でも結んで血なんかさっさと混ぜてしまえば良かったのだ。
目の前を茶色い毛の家族が幸せそうに歩いて行く、子供の顔はとても幸せそうだった。
・・・・あの二年前のあの日までの自分の様に・・・。
「ぼくがこの街を焼いたら、あの子たちも死ぬのか・・・。」
憎しみは消えない、しかしあの幸せそうに笑う懸命に生きている家族には罪はない。
きっと、たとえ自分があの時の金色の鎧の男一人を見つけ出してたった一人だけ殺しても罪の無い誰かが死ぬのだ。
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