魔獣の姫に黒の騎士

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

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サナリアの悪夢12

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短く刈り上げた頭に、ヘルムをかぶり直して隠れていた所から出て行った。
物心つく前から一際しっかりと教え込まれた幻術を使い、通路の奥に身を隠す。しかし、どのくらい身を隠せば良いのだろう。持っている食料はそう多くない、自分を連れ出したと言う事は、城はもう落ちたも同然なのだろう、今回無事命が助かったとして、自分に帰る国は有るのだろうか?不安と恐怖の中一晩過ごした次の日の昼頃の事だった。
通路の入り口が開いた。
入り口に見えたのはやけに大きな影だった。
右手に大きな大剣を下げ、左手には何か円い物を下げている。ちょうど人の頭くらいの大きさだなと思った。
瞬間的にあの出て行った兵士ではないし、自国の兵士でもないと思った。
理由は分からない、自国民にしてはやけに大きすぎる体格のせいなのか、この国の王子を迎えに来た癖に大剣を剥き出しにして握り締めていた所か、出口に佇んでいるのに自分の名前を呼ばないせいなのか・・・。
左手にぶら下がる不吉な円い影のせいなのか・・・・。
とにかく、見方と断定出きるまで隠れている事にした。
ガチャリ、と音を立てて影が又一歩近付いてくる。
確信した、アレは敵兵だ。
自国の兵は足首までは金物の防具は着けない習慣なのだ。
隣国と比較して華奢な体格のこの国の民は、体格のがっしりした兵士達ですら、隣国に比べると力で負ける、防御力よりも少しでも身軽になって俊敏さを活かした方が肉弾戦になった時の勝率が高いからだ。
では、あの左手にぶら下げられている物は・・・。
悪い予感で自分の体が充ちた。
間違っても叫んだりしない様に自分の声を封じた。
大きな影はガチャリガチャリと音を立てながら段々近づいて来る、その内左手に持っていた物をランタンで前を照らす時の様に前方に突き出し始めた。
必死に気配を消した。
見ない方が良い、見ない方が良いと分かっていながらも視線はその左手の持つ物の方に行ってしまう。
逃げ隠れしている時に一番の下手だと分かっていながらも、とうとう目を瞑ってしまった。
どうせ、気付かれていたらもう自分の足じゃ逃げ切れないという思いも有ったかも知れない。
しかし、入ってきた大きな影が自分の前でピタリと止まり、
「厳重に隠しているからてっきり隠し通路かと思ったが、唯の猟師の洞窟を利用した山小屋代わりだったか。」
っと言った時、つい目を開けた。
開けた先には、予感通り、短く狩り上げたあの兵士の生首が釣る下がっていた。
首と、目が合った。
ここで見つかったら確実に殺される。必死に声も息すらも殺したが、涙だけは止められなかった。
影が出て行った後もその場に固まったまま、日が沈むまで身動き一つ出来なかった。
夜空が満点の星で満杯になりなる頃には、通路の中には一点の光も無くなり、自分の心と一緒に闇で満たされた。

殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる。

母を、自分を助けてくれた兵士を殺したあの男を絶対自分の手で殺してやる。そう決めて子供は丸二年、そのままその通路に隠れ住んだ。
    
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