上 下
61 / 124

王子と騎士4

しおりを挟む
あぁぁ・・・もう・・・と盛大に溜息を一つ吐いてサナリアは観念する事にした。
「後悔しても、そう簡単には解く事は出来ませんからね!!」
「!後悔なんかするものか!」
「分かっているんですか?!近しい人の様子がいつでも分かる事の不便さが、良い事ばかりじゃ無いんですよ?!」
「それでも、俺は絆がどうしても欲しい。」
「これが原因で団長業に支障を来したら即刻解除しますからね!」
「・・・・分かった。」
「大体、何で今なんですか、こんな急ごしらえじゃ、恰好も着かないじゃないですか」
サナリアはブツブツと言いながらもガルゴの剣の前に降り立った。
割を食うのは騎士リリィの方ばかりなのに、泣きつくみたいに頼まれちゃ流石に断れない。何のかんの言っても、惚れた弱みだ。
サナリアはガルゴには甘いのだ。
プライベートの一つや二つくれてやる位に、サナリアにとっても。『リリィ』との思い出は心の支えなのだから。
しかし、殆ど部外者が周囲に居ないと言っても、ここは街中だ、どこから誰に見られているのかも分からないのでウロボロスの制服を着ている限り、マスクは取れない。
このふざけた格好で儀式を行うしかない。
「かの有名な『神の選抜』もこうなっちゃ形無しですよ。」
神聖と言われていた儀式なのに、と、かの亡国の王子はぼやきつつ、それでも事を進める事にする。
「リリィ・ブラック、剣を抜いて、二本とも。」
「あ?」
「魔術師でも無い者が、誰かを縛り、覗き見る力を得る様な儀式が、跪くだけのお綺麗な物な訳無いでしょう。この儀式は一種呪いに近いんです。『神』の血液が必要なんです。」
『ほら、ノロノロしてると見物人が増えちゃうじゃないですか、早くする!』と、サナリアはガルゴを急かした。
「血液?血か?どの位?何で剣が二本も必要なんだ?」
やっと望みを聞き入れてもらえたガルゴは言われるがままに二本の剣をすらりと抜いた。
「貴方が二本も私に捧げたからでしょう。重くて私じゃ持てないからそのまま持ってて下さい。絶対に動かないで、私はまだ死にたくないです。血の量ですか?。」
サナリアが抜かれた剣に近づく、愛しい人の首が自分の持つ剣に近付いてきて、ガルゴリリィの全身が総毛立った。
サナリアが感情の無い声で言った。
「沢山です。」
そう言って、二本重ねて立てられていた剣に自分の首をあてがうと、おもむろに身を起こした。
剣が深くサナリアの首に食い込む、鮮血が空を舞った。
「サナリアー!」
ガルゴリリィが悲鳴をあげる。
「剣を離さないで!やり直しになります!。」
「!」
サナリアの叱咤に慌てて剣を持ち直す。
出来たばかりの傷口を手で押さえながら、サナリアはゆらりと立ち上がった。
「さぁ、必要な物は揃いました。儀式を始めましょう。私の傷口が乾かない内に済まさなければならないんです。ボヤボヤしている時間は有りませんよ。」
傷は儀式が終わるまで治療出来ないらしい。
そうして始まった儀式は、以外とシンプルなものだった。
サナリアが静かに、そして厳かに最初の言葉を紡ぎだし始めた。
「今ここに・・・」

今ここに、二振りの剣が『神』捧げられた。
『神』はここにそれを召し上げる事を宣言する。
剣は『神』の血を吸い、研ぎ澄まされた。
それは、『神』に許された者の証し、今一度捧げよ。

サナリアが言い終わると同時に、剣にベットリと着いていたサナリアの血液は次第に剣の中央に集まり出して柄や刀身を彩る紅の飾りと成ってしまった。
ガルゴリリィはあっけにとられながも言われるままに剣を鞘に戻し、二本の剣をサナリアの足元へと持ってきた。
サナリアが剣の側に一歩踏み出る。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

黒髪黒目が希少な異世界で神使になって、四人の王様から求愛されました。

篠崎笙
BL
突然異世界に召喚された普通の高校生、中条麗人。そこでは黒目黒髪は神の使いとされ、大事にされる。自分が召喚された理由もわからないまま、異世界のもめごとを何とかしようと四つの国を巡り、行く先々でフラグを立てまくり、四人の王から求愛され、最後はどこかの王とくっつく話。  ※東の王と南の王ENDのみ。「選択のとき/誰と帰る?」から分岐。

目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて── ※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。 ※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。 ※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。

宰相閣下の絢爛たる日常

猫宮乾
BL
 クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。

姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました

拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。 昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。 タイトルを変えてみました。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった

藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。 毎週水曜に更新予定です。 宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。

処理中です...