魔獣の姫に黒の騎士

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

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王子と騎士2

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「誓いを立てる事を思い付いたのは今だがな、ラメシャンに関しては結構以前に調べた。そこまで真っ赤な髪は珍しいだろう。俺がお前の研究室に初めて行った時にな、誰だったか『赤い髪の人間が住む、ラメシャンという国が昔有った』と教えてくれたヤツがいてナ。ウロボロスの経営する孤児院で育ったお前が、戦争孤児なのは有名な話だし、きっとラメシャン人だったんだろうと勝手に思って暇を見つけては柄にもなく図書館なんかに通い詰めた。真か王子だとまでは思い至らなかったが・・・。ラメシャンがどんな国だったのか、結婚するにはどんな決まりが有るのか、どんな文化が有ったのか、なぜ滅びたのか、他国に比べてラメシャンに関する事が載っている本は少なかったがな、それでも俺には中々の量だったよ。それらの本の中に頻繁に出て来る騎士の儀式の話があった。『神の選抜』とかいう中々面白い騎士の誓いが有るって話しじゃねぇか、どちらか片方か双方がラメシャンで有る者同士が『神の選抜』を完了させると特別な絆が出来るという、その絆が有る限り、騎士は剣を捧げた相手『神』の真の命令に逆らう事は出来ない、しかし代わりに騎士は己の選んだ相手が今何処にいるのか、何をしているのか、どんな状態なのか逐一分かる様になる、俺が欲しいのはその絆だ。その為ならお前に何を差し出すのも惜しくない。」
絶対に拒否を許さないつもりのガルゴは、『その為なら、何でもお前に差し出す』とサナリアを見据えて言い切った。
その決意に満ちた強い視線が、サナリアの心をひどく揺さぶった。
マスクを被っているのでガルゴにはサナリアの瞳なんて見えない筈なのに、自分の視線を真っすぐ捉えられている錯覚さえ覚えた。
「そんなもの、尊厳を犠牲にする程の価値なんて無いでしょう!」
気圧されて、サナリアは叫んだ。
「そんな絆と同じ効果の有る魔法ぐらい、私なら制約無しで簡単に作れる!」
「それじゃ意味がネェんだよ。」
悲鳴を上げる様に喋るサナリアとは裏腹に、落ち着いたしっかりした口調でガルゴが言いせまる。
「アンタが作ったアンタが簡単に切れる絆じゃ意味がネェんだ。いつ取り消されるか知れねぇ絆なんて安心出来るもモンか。」
「安心?」
「十二だ。」
ガルゴがズイとサナリアのマスクに顔を近づけた。
「十二で俺は、俺を助けてくれた魔道士ともう一度会う為にウロボロスに入ったんだ。」
『アンタを探してたんだ。』とガルゴは繰り返し言った。
話しながらガルゴはサナリアの足首を掴んで力づくで差し出した剣の上に両足を乗せさせようとしている。
『っく往生際の悪い!さっさとその足乗っけねぇか!』などと悪態をつくガルゴをサナリアは掴まれていない方の足でゲシゲシとけ飛ばして阻止している。『だ・か・ら・お断りだと言っているでしょうが!』暫くジタバタしていたがサナリアの足がガルゴの顎をグイと押し上げた所で一旦お互い離れた。
「この頑固モンが!」
「強情っぱりに言われても何とも思いませんね!」
二人ともゼイゼイと肩で息をしている。
一息つくとガルゴは又サナリアに話し始めた。
是が非でも『神の選抜』を今行うつもりらしい。
「アンタを探し出す為に、十二でウロボロス騎士団の見習いとして入団した。それからずっと戦場だ。見つかる保証何て何も無かった。でも、ウロボロスの魔道士だった事しか分る事が無い以上、他に方法なんて俺には思いつかなかった。学の無い俺には騎士団位しか居場所は作れなかった。やっと見つけたんだ!二度と見失うもんか!その為には手段なんか選べるか!!」
サナリアの手にそっと大きな太い指を絡めて逃がさない様にぎゅっと握った。
「化け物、雑種、悪魔と言われる流石の俺でも、十二の子供の時分では戦場は恐ろしい所だったよ。俺は昔から強かったから、ヤバイ案件ばかり駆り出されてた。沢山死にそうになって、沢山殺した。冷たい洞窟で一人暗闇に耐える時は、アンタの腕の温もりと、声と言葉だけが俺の心の灯りだった。何度も自分に言い聞かせてたよ。『俺は生きてても良いんだ。だって魔道士がそう言ったんだから。』ってな、仲間の死体に囲まれて震えながら救助を待った地獄みたいな夜も何度も自分に言い聞かせて乗り切った。親もいねぇ、友人ダチもいねぇ、年上ばかりの騎士団のヤツらは友人ダチとはちと違う。かと言って同年の子供相手じゃ身体能力が違い過ぎて怖がられるだけでやっぱり友人ダチにはなれねぇ。俺にはたった数日抱きしめてくれたアンタとの記憶だけが生きる糧だった。」
ガルゴはサナリアのもう一つの手も手に取った。

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