59 / 124
王子と騎士2
しおりを挟む
「誓いを立てる事を思い付いたのは今だがな、ラメシャンに関しては結構以前に調べた。そこまで真っ赤な髪は珍しいだろう。俺がお前の研究室に初めて行った時にな、誰だったか『赤い髪の人間が住む、ラメシャンという国が昔有った』と教えてくれたヤツがいてナ。ウロボロスの経営する孤児院で育ったお前が、戦争孤児なのは有名な話だし、きっとラメシャン人だったんだろうと勝手に思って暇を見つけては柄にもなく図書館なんかに通い詰めた。真か王子だとまでは思い至らなかったが・・・。ラメシャンがどんな国だったのか、結婚するにはどんな決まりが有るのか、どんな文化が有ったのか、なぜ滅びたのか、他国に比べてラメシャンに関する事が載っている本は少なかったがな、それでも俺には中々の量だったよ。それらの本の中に頻繁に出て来る騎士の儀式の話があった。『神の選抜』とかいう中々面白い騎士の誓いが有るって話しじゃねぇか、どちらか片方か双方がラメシャンで有る者同士が『神の選抜』を完了させると特別な絆が出来るという、その絆が有る限り、騎士は剣を捧げた相手『神』の真の命令に逆らう事は出来ない、しかし代わりに騎士は己の選んだ相手が今何処にいるのか、何をしているのか、どんな状態なのか逐一分かる様になる、俺が欲しいのはその絆だ。その為ならお前に何を差し出すのも惜しくない。」
絶対に拒否を許さないつもりのガルゴは、『その為なら、何でもお前に差し出す』とサナリアを見据えて言い切った。
その決意に満ちた強い視線が、サナリアの心をひどく揺さぶった。
マスクを被っているのでガルゴにはサナリアの瞳なんて見えない筈なのに、自分の視線を真っすぐ捉えられている錯覚さえ覚えた。
「そんなもの、尊厳を犠牲にする程の価値なんて無いでしょう!」
気圧されて、サナリアは叫んだ。
「そんな絆と同じ効果の有る魔法ぐらい、私なら制約無しで簡単に作れる!」
「それじゃ意味がネェんだよ。」
悲鳴を上げる様に喋るサナリアとは裏腹に、落ち着いたしっかりした口調でガルゴが言いせまる。
「アンタが作ったアンタが簡単に切れる絆じゃ意味がネェんだ。いつ取り消されるか知れねぇ絆なんて安心出来るもモンか。」
「安心?」
「十二だ。」
ガルゴがズイとサナリアのマスクに顔を近づけた。
「十二で俺は、俺を助けてくれた魔道士ともう一度会う為にウロボロスに入ったんだ。」
『アンタを探してたんだ。』とガルゴは繰り返し言った。
話しながらガルゴはサナリアの足首を掴んで力づくで差し出した剣の上に両足を乗せさせようとしている。
『っく往生際の悪い!さっさとその足乗っけねぇか!』などと悪態をつくガルゴをサナリアは掴まれていない方の足でゲシゲシとけ飛ばして阻止している。『だ・か・ら・お断りだと言っているでしょうが!』暫くジタバタしていたがサナリアの足がガルゴの顎をグイと押し上げた所で一旦お互い離れた。
「この頑固モンが!」
「強情っぱりに言われても何とも思いませんね!」
二人ともゼイゼイと肩で息をしている。
一息つくとガルゴは又サナリアに話し始めた。
是が非でも『神の選抜』を今行うつもりらしい。
「アンタを探し出す為に、十二でウロボロス騎士団の見習いとして入団した。それからずっと戦場だ。見つかる保証何て何も無かった。でも、ウロボロスの魔道士だった事しか分る事が無い以上、他に方法なんて俺には思いつかなかった。学の無い俺には騎士団位しか居場所は作れなかった。やっと見つけたんだ!二度と見失うもんか!その為には手段なんか選べるか!!」
サナリアの手にそっと大きな太い指を絡めて逃がさない様にぎゅっと握った。
「化け物、雑種、悪魔と言われる流石の俺でも、十二の子供の時分では戦場は恐ろしい所だったよ。俺は昔から強かったから、ヤバイ案件ばかり駆り出されてた。沢山死にそうになって、沢山殺した。冷たい洞窟で一人暗闇に耐える時は、アンタの腕の温もりと、声と言葉だけが俺の心の灯りだった。何度も自分に言い聞かせてたよ。『俺は生きてても良いんだ。だって魔道士がそう言ったんだから。』ってな、仲間の死体に囲まれて震えながら救助を待った地獄みたいな夜も何度も自分に言い聞かせて乗り切った。親もいねぇ、友人もいねぇ、年上ばかりの騎士団のヤツらは友人とはちと違う。かと言って同年の子供相手じゃ身体能力が違い過ぎて怖がられるだけでやっぱり友人にはなれねぇ。俺にはたった数日抱きしめてくれたアンタとの記憶だけが生きる糧だった。」
ガルゴはサナリアのもう一つの手も手に取った。
絶対に拒否を許さないつもりのガルゴは、『その為なら、何でもお前に差し出す』とサナリアを見据えて言い切った。
その決意に満ちた強い視線が、サナリアの心をひどく揺さぶった。
マスクを被っているのでガルゴにはサナリアの瞳なんて見えない筈なのに、自分の視線を真っすぐ捉えられている錯覚さえ覚えた。
「そんなもの、尊厳を犠牲にする程の価値なんて無いでしょう!」
気圧されて、サナリアは叫んだ。
「そんな絆と同じ効果の有る魔法ぐらい、私なら制約無しで簡単に作れる!」
「それじゃ意味がネェんだよ。」
悲鳴を上げる様に喋るサナリアとは裏腹に、落ち着いたしっかりした口調でガルゴが言いせまる。
「アンタが作ったアンタが簡単に切れる絆じゃ意味がネェんだ。いつ取り消されるか知れねぇ絆なんて安心出来るもモンか。」
「安心?」
「十二だ。」
ガルゴがズイとサナリアのマスクに顔を近づけた。
「十二で俺は、俺を助けてくれた魔道士ともう一度会う為にウロボロスに入ったんだ。」
『アンタを探してたんだ。』とガルゴは繰り返し言った。
話しながらガルゴはサナリアの足首を掴んで力づくで差し出した剣の上に両足を乗せさせようとしている。
『っく往生際の悪い!さっさとその足乗っけねぇか!』などと悪態をつくガルゴをサナリアは掴まれていない方の足でゲシゲシとけ飛ばして阻止している。『だ・か・ら・お断りだと言っているでしょうが!』暫くジタバタしていたがサナリアの足がガルゴの顎をグイと押し上げた所で一旦お互い離れた。
「この頑固モンが!」
「強情っぱりに言われても何とも思いませんね!」
二人ともゼイゼイと肩で息をしている。
一息つくとガルゴは又サナリアに話し始めた。
是が非でも『神の選抜』を今行うつもりらしい。
「アンタを探し出す為に、十二でウロボロス騎士団の見習いとして入団した。それからずっと戦場だ。見つかる保証何て何も無かった。でも、ウロボロスの魔道士だった事しか分る事が無い以上、他に方法なんて俺には思いつかなかった。学の無い俺には騎士団位しか居場所は作れなかった。やっと見つけたんだ!二度と見失うもんか!その為には手段なんか選べるか!!」
サナリアの手にそっと大きな太い指を絡めて逃がさない様にぎゅっと握った。
「化け物、雑種、悪魔と言われる流石の俺でも、十二の子供の時分では戦場は恐ろしい所だったよ。俺は昔から強かったから、ヤバイ案件ばかり駆り出されてた。沢山死にそうになって、沢山殺した。冷たい洞窟で一人暗闇に耐える時は、アンタの腕の温もりと、声と言葉だけが俺の心の灯りだった。何度も自分に言い聞かせてたよ。『俺は生きてても良いんだ。だって魔道士がそう言ったんだから。』ってな、仲間の死体に囲まれて震えながら救助を待った地獄みたいな夜も何度も自分に言い聞かせて乗り切った。親もいねぇ、友人もいねぇ、年上ばかりの騎士団のヤツらは友人とはちと違う。かと言って同年の子供相手じゃ身体能力が違い過ぎて怖がられるだけでやっぱり友人にはなれねぇ。俺にはたった数日抱きしめてくれたアンタとの記憶だけが生きる糧だった。」
ガルゴはサナリアのもう一つの手も手に取った。
1
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる