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パレード5
しおりを挟む大きな黒豹の口が静かに開いて答えを紡ぎ出す。
「宣誓だ。」
ウロボロスは世界平和を目指す組織だ、そこで働く者達は、実力に差はあれど、少なからずその設立理念に感銘を受け、厳しい試験を乗り越えて今ウロボロスの紋章を背負っている。戦果の絶えないグイネバルド出身者ならば尚更だ。
観客ならばパレードの演武やフィナーレのイリュージョンの時が一番意識を持っていかれて周囲に注意を払わなくなるだろうが、ウロボロスに属している者が最も集中してしまう演目は、毎年魔道部門代表が行う魔導研究機関ウロボロスの設立理念を暗唱するイリュージョン直前の宣誓だろう。
「その時最も狙いやすいのは?」
「一人舞台に立って宣誓する、お前だろう。」
「いいえ、舞台に集中している誰かですよ。一番狙いやすいのは。私は壇上に一人で上がり、一見狙いやすい様に見えますが、舞台に上がった時から四方八方から注目を浴びているし、周囲に警護がいるので成功率が低い、殺しが目的なら壇上に集中している誰かです。標的にされている者の中には絶対に貴方の名前が有るはずです。もし、金色の螺の目的がパニックなら私でしょう。しかし恐らく相乗効果を狙って同時に来ます。」
話しながら歩いている内に、いつの間にかサナリアの控室の前に着いていた。
サナリアがドアを開けてガルゴの腕を引き、控室の中へ誘う。
「用は終わってません。というか本題はこれからです。」
「本題?」
ガルゴが聞き返す。
「金色の螺の狙いが何にせよ、私たちは同時に狙われる確率が高い。良いですか、今日のパレードで例え私が襲撃にあったとしても、私を助けてはいけません、むしろ自分を狙う者が居ないか周囲を索敵してください。」
「・・・善処しよう。しかし、ならばせめてこれを・・・」
そう言って、ガルゴはサナリアに首飾りを渡そうとした。
「ガルゴ、特別な時や、急なトラブルの時には変わった事はしない方が良い。」
「しかし。」
なおも差し出した例の首飾りを引っ込めようとしないガルゴをサナリアが言い含めた。
「いつもの服、いつもの武器、いつものアクセサリー。日頃の手間をかけた武器の手入れや鍛練は、イザという時に臨機応変に対応し、全力で対処出来る様になる為の物です。旨くいった時の状態からなるべく外れない様に自分を整えておいた方が良い。私も、貴方も。」
そう言って、サナリアは首飾りをガルゴの首へと戻した。
つま先立ちで手を伸ばし、抱きつく様に両手をガルゴの首の後ろに回して金具を留めてやる。
「サナリア」
「それに、それ作ったの私ですよ、自分用にもっと手の混んだ物今日位着けてます。」
そう言って、悪戯っぽく口角を上げて唇だけで笑うと。
ガルゴの手を自分の腰に誘導した。
ガルゴがサナリアの腰をそのまま引き寄せ抱き締めると、服の下に組紐か鎖の様な手触りがガルゴの手のひらに伝わって来た。
「夜驚かせようと思ったのに。」
少し照れたサナリアがそっぽを向いて少し頬を染めながら呟いた。
「サナリア」
ガルゴが抱き締める腕に力を込めると、サナリアがゴーグルを外した。
美しい紅の睫毛と深緑の瞳が露になる。
「口づけを、触れるだけの軽いヤツが良い。」
うるりと揺らめく瞳の光に誘われて、ガルゴがサナリアの唇に角度を変えて二度口づけを落とす。二回目はつい少し唇を食んでしまった。
サナリアが嬉しそうに頬笑む、
「知ってます?男は仕事前に妻や恋人からキスを貰うと三割仕事の能率が上がるそうですよ。」
そう言って背伸びをし、三回目のキスをした。
驚くガルゴの背中を押して、部屋から送り出す。
「このお守りなら、落とす心配も無いでしょう。」
ガルゴが振り向くより先に扉は閉じた。
巨漢の男が扉の前で立ち尽くす。
男の耳には、扉のすぐ向こう側の愛しい人が扉に背を着け、微かに立てた物音が届いている。
まさか、あのつっけんどうな彼が、恋人になるとこんなに可愛い男になるとは。
「サナリア、信じるぞ。」
ガルゴが静かに言うと
「当たり前です。」
扉の向こうから小さく返事が帰ってきた。
「夜は覚えてろよ!」
そう言って、ウロボロス第一騎士団団長は決戦に向かうた為に扉の前から去って行った。
部屋の中のサナリアの顔は真っ赤に染まっていた。
「宣誓だ。」
ウロボロスは世界平和を目指す組織だ、そこで働く者達は、実力に差はあれど、少なからずその設立理念に感銘を受け、厳しい試験を乗り越えて今ウロボロスの紋章を背負っている。戦果の絶えないグイネバルド出身者ならば尚更だ。
観客ならばパレードの演武やフィナーレのイリュージョンの時が一番意識を持っていかれて周囲に注意を払わなくなるだろうが、ウロボロスに属している者が最も集中してしまう演目は、毎年魔道部門代表が行う魔導研究機関ウロボロスの設立理念を暗唱するイリュージョン直前の宣誓だろう。
「その時最も狙いやすいのは?」
「一人舞台に立って宣誓する、お前だろう。」
「いいえ、舞台に集中している誰かですよ。一番狙いやすいのは。私は壇上に一人で上がり、一見狙いやすい様に見えますが、舞台に上がった時から四方八方から注目を浴びているし、周囲に警護がいるので成功率が低い、殺しが目的なら壇上に集中している誰かです。標的にされている者の中には絶対に貴方の名前が有るはずです。もし、金色の螺の目的がパニックなら私でしょう。しかし恐らく相乗効果を狙って同時に来ます。」
話しながら歩いている内に、いつの間にかサナリアの控室の前に着いていた。
サナリアがドアを開けてガルゴの腕を引き、控室の中へ誘う。
「用は終わってません。というか本題はこれからです。」
「本題?」
ガルゴが聞き返す。
「金色の螺の狙いが何にせよ、私たちは同時に狙われる確率が高い。良いですか、今日のパレードで例え私が襲撃にあったとしても、私を助けてはいけません、むしろ自分を狙う者が居ないか周囲を索敵してください。」
「・・・善処しよう。しかし、ならばせめてこれを・・・」
そう言って、ガルゴはサナリアに首飾りを渡そうとした。
「ガルゴ、特別な時や、急なトラブルの時には変わった事はしない方が良い。」
「しかし。」
なおも差し出した例の首飾りを引っ込めようとしないガルゴをサナリアが言い含めた。
「いつもの服、いつもの武器、いつものアクセサリー。日頃の手間をかけた武器の手入れや鍛練は、イザという時に臨機応変に対応し、全力で対処出来る様になる為の物です。旨くいった時の状態からなるべく外れない様に自分を整えておいた方が良い。私も、貴方も。」
そう言って、サナリアは首飾りをガルゴの首へと戻した。
つま先立ちで手を伸ばし、抱きつく様に両手をガルゴの首の後ろに回して金具を留めてやる。
「サナリア」
「それに、それ作ったの私ですよ、自分用にもっと手の混んだ物今日位着けてます。」
そう言って、悪戯っぽく口角を上げて唇だけで笑うと。
ガルゴの手を自分の腰に誘導した。
ガルゴがサナリアの腰をそのまま引き寄せ抱き締めると、服の下に組紐か鎖の様な手触りがガルゴの手のひらに伝わって来た。
「夜驚かせようと思ったのに。」
少し照れたサナリアがそっぽを向いて少し頬を染めながら呟いた。
「サナリア」
ガルゴが抱き締める腕に力を込めると、サナリアがゴーグルを外した。
美しい紅の睫毛と深緑の瞳が露になる。
「口づけを、触れるだけの軽いヤツが良い。」
うるりと揺らめく瞳の光に誘われて、ガルゴがサナリアの唇に角度を変えて二度口づけを落とす。二回目はつい少し唇を食んでしまった。
サナリアが嬉しそうに頬笑む、
「知ってます?男は仕事前に妻や恋人からキスを貰うと三割仕事の能率が上がるそうですよ。」
そう言って背伸びをし、三回目のキスをした。
驚くガルゴの背中を押して、部屋から送り出す。
「このお守りなら、落とす心配も無いでしょう。」
ガルゴが振り向くより先に扉は閉じた。
巨漢の男が扉の前で立ち尽くす。
男の耳には、扉のすぐ向こう側の愛しい人が扉に背を着け、微かに立てた物音が届いている。
まさか、あのつっけんどうな彼が、恋人になるとこんなに可愛い男になるとは。
「サナリア、信じるぞ。」
ガルゴが静かに言うと
「当たり前です。」
扉の向こうから小さく返事が帰ってきた。
「夜は覚えてろよ!」
そう言って、ウロボロス第一騎士団団長は決戦に向かうた為に扉の前から去って行った。
部屋の中のサナリアの顔は真っ赤に染まっていた。
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