魔獣の姫に黒の騎士

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

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パレード1

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太陽は今日沈んでも又次の日昇る。
止まない雨は無いが、消えない命なんて無いし、時が止まる事も無い。
嫌がおうでも時は進むのだ。
故に如何にサナリアがパレード参加が嫌でも、夜は明け、パレードの本番の日が来た。
サナリアは減なりした顔で控え室で椅子の背もたれに寄り掛かって座っていた。
毎年、ウロボロスのパレードは、途中、武闘部門の陸行隊の剣舞や、飛行隊のアクロバット飛行、水行の水芸等、華やかな見所も有るので見物客が多い。
魔道部は対面上参加するが、基本的に前後左右、場合によっては上空まで武闘部門の猛者に固められて、本当に浮遊させた板に乗り、行進のスピードに合わせて進むだけとなる。
素人目には全くもって退屈で、見所と言ったら最後の代表者の宣誓とイリュージョン位、これを今年はサナリアがやらなければならない、他の目ぼしい物と言っても、魔導部門代表が被るドラゴンと、その他の魔道部門の者が被る不気味な老人のフルフェイスマスク位だった。
本当の所、魔道部門が行進の時に使う飛行魔術は、数ある魔術の中でも最も制御が難しい魔法であり、しかも恐ろしく魔力を食う、完ぺきなコントロールと、多大な魔力を必要とするこの術を、半日中もの長い間、使い続ける事が出来る人材が、隊列を組める程同じ組織に所属している事自体、周囲の武力組織が畏縮する位凄い事なのだが、そこに気付く者は限られている。
まぁ、元々、ウロボロスが正体を極秘にさせている魔導部門の職員込みでパレード参加するのは魔導部門の人材の潤沢さを関連組織にアピールするのが目的なのでそれで良いのだろう。
パレードは支部の有る首都入口から始まり、毎年同じコースを通って渦巻き状にゆっくり進み、ゴールのウロボロス・グイネバルド支部にたどり着く、これで半日掛かる。
その間ずーっと板の上だ。
「退屈だ。」
椅子に寄り掛かってダレているサナリアが独り言を呟いた。
いくら退屈でもパレードになれば、周囲に人の目が有るのでサボる事も出来ない。おまけに目的地に着いたら、宣誓とイリュージョン魔術を行わなくてはならない。
「正直、本当に面倒くさい。」
それこそ飛んで逃げたい。
イリュージョンの内容は毎年華やかで美しいものだったが、サナリアが組んだ魔術はちょっと異例の出来となっている。
きっとグイネバルド史上最悪の評価となるだろう、任されたからには真面目に考えたがこれしか思い付かなかった。
やれやれ、と重い腰をあげて行進時着用が義務づけられている魔道部門戦闘服に着替えていると配声管から緊急召集を知らせる声がした。
『緊急召集、緊急召集、緊急度黄土、各騎士団団長及び魔道部門魔導士及び魔導師は五階広場に集まってください。その他本日パレードに参加する各部門メンバーは配声管の近く、又は遠見鏡の近くに集まってください。繰り返します・・・』パレード開始2時間前の事だった。
 
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