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アルテミナとガルゴ8

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「嘘でも他に男なんか探してくれるな。」
困った表情のまま何も言わなくなってしまったサナリアに、ガルゴはもう一度言った。
茶金の瞳が真っすぐサナリアを見つめている。サナリアは、こんな時なのに『瞳の色が子供の頃寝る前に舐めさせて貰った黒蜜の水飴の色に似ている』とか『そういえば今日は私服なんだな。』とか変な事を考えていた。
でも、それはサナリアがガルゴという個人について、着ている服にまで意識を向ける程特別な興味を示した瞬間でもあった。
サナリアには、もうガルゴを断る言い訳は思い付かなくなっていた。
それよりも、さっきから、自分の動悸が大きく早くなっており、耳の良いガルゴに聞こえてしまうんじゃ無いかとそればかり気にしていた。
「俺じゃ嫌か?アルテミナ。」
その問いかけにもやはり答えず、サナリアがそっとガルゴの顔に右手を伸ばすと、ガルゴは黙って少しその身をサナリアに近づけた。
手のひらは、最初に、鼻面を撫で下ろした。
ガルゴは音もなく口許に降りてきたサナリアの手に、唇をあてるだけのキスをした。
サナリアの頬がほんの少し薄桃色に色づく。手のひらは、そのままひげを根本から撫で上げ、目元をかすめ、頬に少し留まり温める。ガルゴはそのまま頬をサナリアの手のひらに預ける様に小首を傾け
「ん?」
っと問いかけながら目を細めた。
サナリアは、やはり答を返さず、視線も外さず、ただその深緑の瞳に映る光を揺らめかせて何かを確かめる様に手を動かす。耳の裏をくすぐり、首筋を撫でて首飾りに辿り着くと鎖を伝って飾りを探り当て、弄ぶ、そこでやっと声を出した。
「プライべートでも着けっぱなしなんですか・・・・。」
飾りがシャラシャラと綺麗な音を立てた。
「お守りも同然だからな。」
「こんな物ただの道具ですよ。」
「そう言うなよ、これに何十回って助けられてるんだ。」
「命を掛けた仕事をする人間が、物理でお守りなんか持つもんじゃ有りません。そんなもの、イザとなったら誰かにあげるでもポイ捨てするでも、壊すでも売っぱらうでもして下さい、大事なのは貴方達が生きて戻って来る事でしょう。」
「アルテミナ・・・。」
「生きて戻って、私に何回でもせがめば良いでしょう。『悪い、アルテミナ、又あの魔導具作ってくれよ』って言えば良いんです。」
「!・・・それは・・。」
ガルゴのの声に期待が籠る。
「私は、いいえ、多くの魔導士達は、その為に魔導士になったのですから。」
首飾りを玩んでいたサナリアの右手が、飾りを離してガルゴの喉を登り、猫をあやすみたいに顎をくすぐった。
「どっちなんだ・・・アルテミナ。抱き締めて良いのか、嫌なのか。」
ガルゴがサナリアの座っている椅子の両の肘おきを掴んで迫った。
顎をくすぐっていた指先がそのままゆっくり喉を撫で下りて鎖骨をなぞり、肩を撫で、肱まで下りて来た。
「頑丈そうな骨格ですね。よくもまぁ、こんなに大きく育ってくれたものです。」
「・・・・俺が親から貰った唯一の贈り物だ。コレのお陰で今俺はここに居る。」
「何でそっちこそ力尽くで組み敷かないんですか?」
サナリアが身を屈めて顔を近づけた。
キスをする直前かと思うほど近い。
「嫌がる相手を強引に手込めにするなんざぁ男がすたるじゃねぇか。」
ゴロゴロと恐ろしいほど低い音を立ててガルゴの喉が鳴っている。サナリアの手が、ガルゴの手首まで下りてくると、どちらともなく二人はお互いの指を絡めた。
「それに俺は抱き締めて甘やかす方が好きなんだ。喜ぶ可愛いヤツを舐めてさすって揺すって善がらせてトロトロにして抱くのが好きなんだ。ねじ伏せるのは戦場の敵だけで良い。」
サナリアの手が指を絡めたままガルゴの手を自分の頬にまで導いて頬にあてる。
「そんなんじゃ、利用されて終わっちゃいますよ。」
「それでも俺は、騙してたりねじ伏せたりするよりも、真実喜ぶ相手を抱きたい。」
「・・・やせ我慢・・・。」
「そうだな。」
二人の唇がさらに近くなる。
「お人よし・・・。」
「よく言われる。」
深緑と金の視線が色香を放って絡み合う、瞬きすら同時にする位に。
「でも・・・」
「でも?」
無表情だったサナリアが、花の蕾がほころび咲く様な微笑みになる。それがガルゴが初めて見たサナリアの笑顔だった。
「私相手ならそれが唯一の正解です。」
瞬間、椅子に腰かけていたハズのサナリアの体は掻き消え、ガルゴの腕にきつく抱きしめられながら、深く口づけを交わしていた。

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