魔獣の姫に黒の騎士

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ

文字の大きさ
上 下
35 / 124

アルテミナとガルゴ5

しおりを挟む
その時の、勝ち誇った様な、あの性格に問題の有る師匠の楽しそうな表情を思い出し、サナリアは思わず拳を握りしめてテーブルを叩いた。
「幸いというか運が悪いというか、ここには師匠はいません。かくなる上は魔術で街に飛んで誰彼構わず股を広げたりしない様に魔封じの枷を着けてここに閉じこもるしか・・・・。ここは魔道部門共有の研究施設ですが、辺りが強い魔獣が多いので殆ど僕しか使用してません、こんな祭りの時季、誰も来ないでしょう。紫スライムの成長度合いが通常のスライムと同じなら、フィナーレにギリギリ間に合うはずです。」
「・・・誰彼構わず・・・そんなに強いのかあのスライム催淫効果・・・。」
「紫スライムの体液の催淫効果はサキュパスの花の次と言われています。実際、最後のほう私殆ど自分が何していたのか記憶に有りません。」
サナリアは罰が悪そうに頬を赤くしてそっぽを向いた。
ガルゴは先ほどのサナリアの状態を思い出して、自分の息に熱が灯った事に気が着いた。
余りにも卑猥で淫らでしかも性欲に塗れたサナリアは酷くガルゴの欲を掻き立てた。
本気で好きな男じゃなかったらもう強引に押し倒して抱きつぶしてたに違いない。
自分でも何で今の自分の状態で、あのサナリアに手を出さずに済んだのか分からない。
イヤ、冷静になれ、考えろ、過去より今だ。
ここにあんな状態になる様なアルテミナ研究員を一人で置いて行ったらどうなる?。
「・・・さっき、『殆どだれも来ない』と言ったな、絶対来ないとは言い切れないって事だろう?祭りに浮かれたウチのカップルが来るかもしれねぇぞ?騎士が一人いれば魔術師でもココ位は来れる。メシはどうするんだ?普通の人間に二週間の絶食は寝たきりでも死にかねねぇぞ?」
「来ない事を祈るしか無いですね。食べ物は・・・持って来てはいるので・・・多分自分で食べれると思います。だから・・・」
だから、後は耐えれば良いだけのハズだ。
「スマン、やっぱ置いて行けねぇ。今のアンタ充分正気が足りてネェ様にしか見えねぇ。普段のアンタだったら、こんな穴だらけのプランじゃ無くて、『絶対大丈夫』なプランを考えるはずだ。それに・・・二週間催淫剤漬けの体で、たった一人でこんな所に閉じこもって辛いに決まってる。」
「裸で祭りの会場に現れて『誰か突っ込んでくれ』と強請る醜態をさらすよりはマシです。」
「・・・・強請ったのか・・・・。」
サキュパスの花の催淫剤の時は・・・・。
「師匠が研究の記録として取った動画では強請ってましたね。あんな醜態さらす位なら私は二週間一人で餓えながらのたうち回る方を選びます。さぁ・・・早くその魔封じの枷を私にかけて鍵を持ってどっか行ってください!」
気の強そうな美しい緑の瞳がひたとガルゴを見据え、さあ魔封じの枷をよこせと両手を差し出す。
ガルゴは、どうしてもサナリアを一人にして行く事は出来なかった。
心配だし、自分のが原因でこれから酷い事になる彼を、こんな寂しい所に独りぼっちで置いて行けない、それに、これからこの愛しい人が誰でも良いから抱いてくれと泣くのかと思うとムラムラと怒りがこみあげて来ない事も無い。
何故『自分』を呼ばないのだ。
「・・・・・・・・・・あのな、もう分かっているとは思うがな。俺はよ、アルテミナ研究員、アンタに大分惚れてるんだよ。」
「・・・・・・・・・・え?」
鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしたサナリアを見て、『イヤ気づいてないのオカシイだろ』とガルゴは本気で突っ込みを入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...